8月24日(水曜日)
無人島の火災から一夜明けた。
午前中は前線組に確保された犯人の裁判や原油の抽出方法などの事があり、
王宮は慌ただしかった。
ちなみに、犯人は奴隷落ちし、強制労働(実時間)2ヶ月の刑になった。
これは、NPCではなく、プレイヤーとしての処置。
落ち着きを取り戻した午後に、僕達は今後の事を話し合った。
「しかし、今までダンジョンなどで手に入る装備品には、
プラスの品しか無いと思っていましたが、マイナスの装備品もあるんですね。」
「ああ。それは、わし達も初めて知った。」
国王様は、腕を組んで、今後の事を考えているようだ。
「本当ですね。今回が特殊とは考えづらいので、今までが幸運だったのかも知れませんね。」
ここで、ソアリスさんは残念そうに話を続けた。
「ただ、問題の品の回収が出来なかったのが残念です。」
そう。
問題の品の欠片が無いかと、多くの人員を入れて探したけど、結局見つからなかった。
多分に、九尾狐の子供が装備品の能力によって、強制的に力を使わされた時に破壊されて、
なおかつ、アシーナさんが「原油」で火の温度を上げた事によって、
装備品は高温で溶かされたと考えられる。
探せば、もしかしたら、鉄の塊が見つかるかも知れないけど、
皮製品や革製品なら、残っていないと思う。
「この話は、これぐらいにして、
午前中、神殿の遺産から、土と原油の分離出来る機械の設計図を見つけました。」
「ソアリス。それは、すぐに使えるのか?」
「はい。素材などの記載があり、珍しい素材は使っていないようです。
ただ、残念ながら、原油の使用方法が無いですね。」
「当時では、普通に使われていたから、書かなかったのじゃな。」
「そうだと思います。」
「では、原油はとりあえず、無人島の表面に出て来た分を回収して、
袋に保存しておけば良いと思いますよ。
土は、肥料として使い、無人島の土と入れ替えれば問題ないと思います。
後は、原油の漏れ出している場所の把握もした方が良いですね。」
「そうですね。今後、同じ様な事態にならないように考えないとダメですね。」
「でも、コーやよ。焼けた土が肥料になるのか?」
国王様が疑問に思っている事を聞いて来た。
「僕の住んでいた地域では、焼き畑農業として使っていました。
詳しく説明は出来ませんが、焼けた草・木・灰が養分となるようですね。」
「なるほどのう。他に肥料に適しているのは無いのか?」
「そうですね。骨粉・動物の排泄物などがあるようですが、
地域によって異なると思うので、今回、口減らしの被害にあった人に、
色々な研究をして貰えば、良いと思います。」
「それが、良さそうじゃの。ソアリスは、その様に取り計らってくれ。」
「はい。分かりました。」
この後、僕達は王宮を退出した。
僕達は、拠点に帰るべく、大通りを歩いていると、アシーナさんを見つけた。
「あ。コーヤさんに、ユヅキさん。昨日はありがとうございました(お辞儀)」
「アシーナさんも、情状酌量有りで罪に問われずに良かったですね。(にこ)」
「はい。死刑になるのではないかと、ビクビクしていていました(苦笑)」
アシーナさんは、僕達と一緒に王宮に行き、国王様に判断を仰いだ。
その結果、悪い事だけでなく、良い事ももたらしたので、罪に問わない事になった。
ただ、戻る場所がない身という事で、昨日は王宮でお世話になったようだ。
「これから、どうするんですか?故郷に帰らないのですよね?」
「(落胆)はい。また、オークジェネラル達が来る可能性もありますし、
何人生き延びたのかも分かりません。当分はこの国に留まるつもりです。」
「そうですね。それが良いと思います。この国は西側に大きくて高い山脈がありますし、
平地で来れるのは、フィンテルとアイテウスだと思いますから、王都なら安心ですよ。」
「はい。昨日、ソアリス王女様にも同じ様な説明を受けました。
ただ、仕事をどうしようかと悩んでいまして・・・。」
「冒険者は?」
「最終的には、そうしようと思っています。
しかし、不幸が重なって、今の状況があるのですが、新しい土地という事もあって、
色々な事をしたいとも思っていまして・・・。(苦笑)」
「なるほど。挑戦する事は良い事ですよ。挑戦無くして進歩しませんから。
故郷では、どんな生活していたんですか?」
「故郷では、見廻組に属して、集落の周りを監視していました。
休日には、作物育てたり、料理したり、色々ですね。」
「へぇー。それでは、肥料に詳しいですか?」
「程々には、母や周りの人達に教えて貰いましたね。」
「それなら、少しの間、王宮の肥料開発チームに入りませんか?
先程、話した感じだと、詳しい人が居なさそうですから。」
「う〜ん。でも、わたしでお役に立てるんでしょうか?」
「肥料の事なら、私も知っていますよ。」
そこに、声をかけられたので、その方向を見ると、
セレサさんが九尾狐の子供を抱いて、歩いて来ていた。
「え?あれ?セレサさん。どうしたんですか?」
「今まで暮らしていた島が全焼して住めなくなったので、
どこか、代わりになりそうな森が無いかと聞きに来たのです。
それと、この子がコーヤさんに会いたいと言うので連れて来ました。」
セレサさんの腕には、1段階成長したとは言え、
まだ、子狐の昨日助けた、九尾狐の子供がいた。
「お兄さん!昨日は、お礼を言いましたが、お礼をしていなかったので来ました!」
「なるほど。でも、元気になって良かったね。(にこ)」
「はい!(にかっ)それで、お礼なんですが、何が良いですか?」
「う〜ん。そう言われてもなぁ。」
考えている間、ユヅキちゃんと遊ぶ事になった。
「この子は、最終的に妖狐に進化すると思いますね。」
「ほぉー。妖狐ですか。妖術とか使えるんですか?」
九尾狐の子供とユヅキちゃんが遊んでいるところを見て、聞いてみた。
「あ!見つけました!はぁ。はぁ。はぁ。拠点に帰っていなくて良かったです。」
話をしていると、ソアリスさんが大急ぎで走って来た。
「あれ?何かありましたか?」
「はぁ。(息を整える)今、会議していて、コーヤ様の土地の土を解析させて貰いたい
という意見があり、まだ、帰っていなければ、聞いてみようと思ったんです。」
「別に構いませんよ。確かに、色々な土を集めて、検証したほうが良いと思いますし。
それで、今、話ししていたのですが、(事情説明)なんですが、どうでしょうか?」
「なるほど。私達としては助かりますが、
アシーナさんとセレサさんは、教えても良いのですか?」
「はい。わたしの知識が役に立てるのであれば。」
「はい。私もお願いを聞いてくれるのであれば、問題ないですよ。」
「ありがとうございます。でも、外敵のいない、島くらいの森ですか。
う〜ん、国の中にあったでしょうか。」
ソアリスさんは考え込んでしまった。
そこへ、ユヅキちゃんが挙手する。
「はい!あの、コーヤさんの拠点裏に、豊かな食材がある森があるんですが、
そこではどうでしょうか?
コーヤさんの領地の一部にすれば、セキュリティーも問題ないと思います。」
「なるほど。それは良い案ですね。確かにコーヤ様の拠点裏であれば、安心安全です。」
「しかし、頼んだ私が言うのもおかしいですが、コーヤさん、良いのですか?」
セレサさんは、少し、申し訳ない感じになっている。
「う〜ん。まぁ。今日、拠点の再生が完了したばかりだし、森には食材を取りに行く以外に、
ほとんど行かないので、セレサさん達が良ければ、構いませんよ。」
「本当ですか?ありがとうございます。助かります。(お辞儀)」
こうして、僕の拠点裏の森に、セレサさんと魔物(動物)達が移住する事になった。
ちなみに、アシーナさんは、冒険者と肥料研究をして行く事にしたようだ。
この様にフォルセニア王国は農業改革へ一歩を踏み出す事になった。