爾(なんじ)速須佐之男命、其の老夫詔(みことのり)す
是、汝之女者(は:短語)吾於(お)奉る哉
答て白(もう)す
恐れながら、御名を不覺(おぼえられ)ず
※「恐亦不覺御名」のように「亦」が入る写本がある
爾(なんじ)答て詔(みことのり)す
吾者(は:短語)天照大御神之伊呂勢(伊自(より)以下三字、音を以ってす)の者也
故、今、天から自ら降り坐す也
爾(なんじ)足名椎と手名椎神、
然し、立つのを恐れる者(は:短語)奉(たてまつる)と白(もう)し坐す
爾(なんじ)速須佐之男命
乃ち湯津爪櫛於(お)取り、其の童女而(に)御美豆良(みづら)を刺して成る
其の足名椎と手名椎神に告げる
汝等、八つの鹽(しお)を折って之(これ)醸(かも)し酒にす
亦、垣を廻りて作る
其の垣に八門於(お)作る
毎門に八つの佐受岐(此三字、音を以ってす)を結び、其の佐受岐毎而(に)酒船を置き
毎船而(に)其の八つの鹽(しお)を折った酒を盛り待つ
故、此の如く而(に)備(つぶさ)に設けた之(この)時、随うを告げて待つ
其の八俣遠呂智信(まこと)の如く来て言う
乃ち船毎に己の頭を垂らして入れて其の酒を飲む
是於(これお)飲んで酔って留まり伏せて寝る
爾(なんじ)速須佐之男命
其の所で御佩(おんおびる)之(この)十拳劔を抜き、其の蛇を切り散る者(は:短語)
肥河を血の流れ而(に)變(かえ)る、故、中の尾を切る時、御刀之刄毀(こわ)れる
爾(なんじ)怪しく思い、御刀之前を以て刺して割り
而(なんじ)見れ者(ば:短語)都牟刈之大刀が在った
故、此の大刀を取り、異なる物の思い於(お)天照大御神而(に)上げると白(もう)す也
是者(は:短語)草那藝(那藝二字、音を以ってす)之大刀也
故、是を以て其の速須佐之男命
宮作る可(べ)き之(この)地を出雲国に求めて造る
爾(なんじ)須賀(此二字、音を以ってす 此れ下も效(なら)う。)の地而(に)
到り坐し之(これ)詔(みことのり)す
吾、此の地に来て、我の心須須賀賀斯く、其の地而(に)宮を作り坐す
故、其の地於(お)今者(は:短語)須賀と云う也
茲(ここ)に大神が初めて須賀宮作る之(この)時、其の地自ら雲立ち騰(あ)がり
爾(なんじ)御歌作り、其の歌曰く
夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾
やくもたつ いずもやへがき つまごみに
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに
夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁
やへがきつくる そのやへがきを
八重垣作る その八重垣を
是於(これお)其の足名椎神を喚(よ)び告げて言う
汝者(は:短語)我の宮の頭(かしら)に任じ、且つ稻田宮主須賀之八耳神の名の號を負う
故而(に)其の櫛名田比賣を以て、久美度邇(くみどに:格子戸)起ち
生まれる所の神名
八嶋士奴美神(士自(より)下三字、音を以ってす 此れ下も效(なら)う。)と謂う
又、大山津見神之女の名神大市比賣娶って生む子 大年神、
次に宇迦之御魂神(宇迦二字以音)
兄八嶋士奴美神、大山津見神之女の名木花知流比賣(此二字、音を以ってす)娶って子、
布波能母遲久奴須奴神生む
此の神淤迦美神之女の名日河比賣娶って子、
深淵之水夜禮花神(夜禮二字、音を以ってす)生む
此の神天之都度閇知泥神(都自(より)下五字以音)娶って子、
淤美豆奴神(此の神の名、音を以ってす)生む
此の神布怒豆怒神(此の神の名、音を以ってす)之女の名
布帝耳神(布帝二字、音を以ってす)娶って子、天之冬衣神生む
此の神刺國大神之女の名刺國若比賣娶って子、大國主神生む
亦名大穴牟遲神(牟遲二字、音を以ってす)と謂う
亦名葦原色許男神(色許二字、音を以ってす)と謂う
亦名八千矛神と謂う
亦名宇都志國玉神(宇都志三字、音を以ってす)と謂う
幷(あわ)せて五名有り
天照大御神之伊呂勢
原文:
爾速須佐之男命詔其老夫 是汝之女者奉於吾哉 答白 恐亦不覺御名 爾答詔
吾者天照大御神之伊呂勢者也【自伊以下三字以音】故今自天降坐也
解読:
爾(なんじ)速須佐之男命、其の老夫詔(みことのり)す
是、汝之女者(は:短語)吾於(お)奉る哉
答て白(もう)す
恐れながら、御名を不覺(おぼえられ)ず
爾(なんじ)答て詔(みことのり)す
吾者(は:短語)天照大御神之伊呂勢(いろせ)の者也
故、今、天から自ら降り坐す也
「老夫」とあるので、「汝之女」とは「童女」でしょうか?
しかし、「童女」を「女」と言うでしょうか?
また、前回は「須佐之男命」が聞いていますが、
今回は、「速須佐之男命」が聞いているので、時期が異なっている可能性が高いです。
そうなると。「童女」が「女」になったとすると、
最低でも数年の年月が経過していると考えることが出来ます。
これらにより、前回の「赤加賀智」などの話とは、また、異なる話となりそうです。
「恐れながら、御名を不覺(おぼえられ)ず」とあるのに、
「吾者(は:短語)天照大御神之伊呂勢(いろせ)の者也」となぜか答えます。
「速須佐之男命」と答えれば良いのに、なぜ、そうしなかったのでしょう?
「自伊以下三字以音」と注記があり、「音読み」指定となっています。
「伊」:呉音・漢音:イ
「呂」:呉音:ロ、漢音:リョ(表外)
「勢」:呉音:セ、漢音:セイ、慣用音:ゼイ(表外)
上記により、呉音「いろせ」、漢音「いりょせい」となりそうです。
意味としては「伊」=「治める人」、「呂」=「背骨」、
「勢」=「いきおい」と考えると、
「背骨の様に過去から現代へと継承され、勢いがあり治める人(もしくは聖職者)」
と変換できます。
「天照大御神之伊呂勢」とあるので、
「「天照大御神」と長く交流があり、現在、勢いがあり、この地を治める人」
と解釈できますが、それが「速須佐之男命」とは限りません。
もしかすると、新しく開拓された土地で、
現地視察していて「速須佐之男命」の事を知らない人だったのかも知れません。
元々、「天照大御神」の土地だったから、
「天照大御神之伊呂勢」の方が理解できたとも考えられます。
多分に、「スサノオ」は「追放」されたと思っている人もいると思いますが、
「故今自天降坐也(故、今、天から自ら降り坐す也)」の文により、
それが間違いだと判明します。
さて、ここで疑問が出ます。
「出雲」とは、「現島根県」なのでしょうか?
この疑問は、他の場面でも書きましたが、
九州から「出雲」に移動するのに、「降る」のでしょうか?
普通に考えれば、
「「天(あま)なる國」のある高台から、地上へと降りて来た」と言えます。
そうであるなら、「天(あま)なる國」の上に「天」があり、
「天(あま)なる國」の近くに「高天原」があり、
その下には「葦原中國」があって、近くに「出雲」が存在したのでは無いか?
と考えるようになりました。
原文:
爾足名椎手名椎神 白然坐者恐 立奉 爾速須佐之男命
乃於湯津爪櫛取 成其童女而 刺御美豆良
解読:
爾(なんじ)足名椎と手名椎神、爾(なんじ)速須佐之男命
乃ち湯津爪と櫛於(お)取り、其の童女而(に)御美豆良(みづら)を刺して成る
今回は「老夫」ではなく「足名椎手名椎神」とあり、
前回の「老夫」の場面とは異なります。
ただ、「老夫」とセットだった「童女」が登場するのが、不思議です。
そもそも、「足名椎」=「老夫」では無いですが、
この場面の登場人物として、
「老夫」、「足名椎」、「手名椎神」、「童女」、「老夫之女」となりそうです。
また、「手名椎神」とあり、初登場の「手名椎」から「神」へと昇格しています。
「神」に昇格したことからも、何らかの功績を上げたと考えられて、
時間の経過を連想できます。
「乃(すなわ)ち」とはありますが、説明がありません。
たぶん、説明文が存在していた可能性が高いと思っています。
「童女」とあるので、「老夫之女」とは別人で、
「童女」が成長したのが「老夫之女」では無い様です。
そして、「童女」に「湯津爪」と「櫛」を取り、「御美豆良」を刺すとありますが、
髪を整えて、「御美豆良」を刺したと解釈できますが、
この「童女」は、高位の人間の子の可能性が出て来ました。
しかし、もし、名があるのなら、書くと思いますが、
「童女」とあるだけで、名を公表していません。
ここに意味があるのかも知れません。
ちなみに、古事記編纂時、「童女」=「櫛名田比賣」と混同していると思われますが、
「御美豆良」を付けるに値する高位では無いので、間違いでしょう。
「童女」を知る情報が失われて久しかったとも受け取れます。
「爪」は分かりますが、「湯津」は何を指すのでしょうか?
「湯」は参照1のサイトには、下記のようにあります。
原文:
“汤” 曾指沸水,热水。
后专指温泉。《说文》 : “汤,热水也。”
“汤” 的古文字形很多,但结构基本相同。除战国时有用“杨”作声符者外,
其他如金文、古玺文、古陶文、《三体石经》、石鼓文、楚、汉简牍、
帛书及小篆均为“左水(氵)右昜”结构。此字一般释作形声字。笔者认为:“昜” 是高高升起的太阳(见 “陽、揚” 释文) ,
用太阳的热能晒热左边的“水” (氵 )使其成为温水,当属会意字。
解読:
"スープ "とはかつて、沸騰したお湯、熱い湯のことを指していた。
その後、特に温泉のことを指すようになった。
シュウエン:"タン、お湯も" 唐」という言葉には古くからいろいろな形がありますが、
基本的に構造は同じです。陽の字が声調記号として使われた戦国時代を除けば、金文、古篆書、古陶文、
三体石文、石鼓文、楚漢文書、巴里文字、小篆など、
いずれも「左水(バク)、右陽」の構造を持つ文字が使われている。この文字は一般に形態素と解釈される。
私の考えでは、「昜」は空高く昇る太陽で(「陽と陰」の説明参照)、
その太陽の熱で左の「水」(氵)を温めているのだと思います。
「Wiki」や「参照2のサイト」では、
「昜」の字源を「太陽が地上にあがる象形」としますが、
参照1のサイトにある「金文」の形を見ると適しているとは思えません。
参照3のサイトにある形を見ると、二通りの形が存在しているので、
「昜」と形が似ていた漢字を混同したのが原因と思われます。
しかし、「日」と「丁」の様な形で「昜」の字源と考えたのは疑問です。
「湯」の「金文」の形を見れば、「日」と「丁」の様な形は、
違うと判断できたはずです。
また、「太陽が地上にあがる」、つまり、「日の出」によって、
「水」が「湯」に変化するとしたのも、おかしいです。
それよりも「空高く昇る太陽」であれば、午前と午後の間を連想でき、
気温の上昇によって、水が暖められて、「湯」となるのは納得できます。
「湯津爪櫛」の「湯津」を「齊」とするサイトもありましたが、
「津」には、参照4のサイトによると「しみでる」、「あふれる」の意味があり、
ある物を、「湯」の中で表面を「爪」でひっかくと、
汁や香りが「津(あふれる)」と解釈すると「湯津」=「ゆず」ではないかと、
考えるようになりました。
「櫛」は、「ゆず湯」に浸けておいて、ゆずの香りを付けた「櫛」だと思われます。
だからこそ、「童女」に刺したのかも知れません。
参照1: 汤- 字源查询- 汉字源流
参照3: 昜- 字源查询- 汉字源流
「
御美豆羅」については、考察しましたが、
「御美豆良」については考察していなかったので、ここで行います。
「御」:呉音:ゴ、漢音:ギョ、訓読み:表内:おん、表外:お、おおん、み
「美」:呉音:ミ、漢音:ビ、訓読み:表内:うつく、表外:よ、うま
「豆」:呉音:ズ(ヅ)、漢音:トウ、訓読み:表内:まめ、表外:ど
「羅」:呉音:ロウ(表外)、漢音:リョウ、慣用音:ラ(表外)、
訓読み:よ、表外:い、まこと、やや
上記により、呉音「ごみずろう」、漢音「ぎょびとうりょう」となりそうです。
「御美豆羅」は、「帽子」と考えましたが、
「御美豆良」は「刺す」から「かんざし」を連想します。
「かんざし」の先端に「豆」の様な丸いものを付け、
「美しく」、「良(優れた品)」を所持していたと考えられます。
当然、資格のない人物に「速須佐之男命」が付けるとは思えないので、
「童女」は「高位の人間の子」と考えるのが良いと思います。