8月23日(火曜日)
次に日に王宮に来て、連作障害について、国王様に聞いてみた。
「なるほど。同じ土地に同じ作物を植えると連作障害と言う栄養不足に陥ると。」
「はい。生まれ故郷では、違う作物を植えて、収穫量が落ちない様にしていました。」
「しかし、今からでは、もう、間に合わんぞ?どうする?」
「はい。なので、作物がどのような性質を持つかを調べると共に、
寒さに強い作物を植えて行けば、仕事が減りませんし、口減らしも少なくなると思います。」
国王様は、腕を組んで考えている。
「ふむ。確かに、このまま、何もしなければ、ジリ貧になるのは確かじゃな。
ならば、少しでも早く、対策した方が良いか。ソアリスはどう思う?」
「今までは、対策取ろうと思っても、どのようにすれば良いのか分かりませんでした。
しかし、今回は、最低でもコーヤ様からの情報がありますし、
神殿に残されている過去の遺産に、有効な方法があるかも知れません。
失敗しても、進んで見るべきだと思います。」
「よし、分かった。確かに、このままだといつかは食料が枯渇する可能性もある。
しかし、今なら、脱却出来る可能性が高いじゃろう。
ソアリス、特別班を作り有効な方法を探させてくれ。その時の人員は、そなたに任す。」
「はい!分かりました!」
「あと、もう一点。特別班を作るなら、栄養分が足りないと思うので、
土地に適した肥料も考えたほうが良いと思います。」
「なるほど。確かに栄養分の無い土地に作物は育たないですよね。ちなみに・・・。」
ソアリスさんが話している最中に、部屋をノックする音がした。
「うん?何かあったのかの?」
「今、確認して来ます。」
ソアリスさんは、戸まで歩いて行って、報告を聞くが、
どうも、緊迫した状況の様で、足早に戻って来た。
「お父様!大変です!海の街アクセリア管轄の無人島で火災発生し、
島を全焼する勢いで、現在、状況確認作業をしているとの事です。」
「無人島で火災じゃと?人為的なのか?」
「その様で、アクセリアの冒険者ギルド支部も動いたと報告があります。」
「よし。ならば、急ぎ状況を把握してくれ。もし、無人島に人が居れば救助優先でな。」
「はい!」
ソアリスさんは、状況を把握する為に、部屋を出て行った。
「国王様。なぜ、人為的だと?」
「ああ。あの地域は、資源が豊富な為、もし、災害が起きるとその資源も無くなる。
名目上、王宮領地とし、管理をアクセリアに委任しておるが、申請制で誰でも入れる。」
「なるほど。だから、王宮に知らせが来たんですね。
でも、自然の火災の可能性もありますよね?」
「ああ。自然災害で一番怖いのが、火災じゃ。無くなるからの。
だから、古代から伝わる観測機を、アクセリアの担当者が使って、
特に温度が上がる時間に測定し、対応する事にしているのじゃ。
そのおかげで、今までに自然火災で、資源を失った事は無いと歴史書にはある。」
「へぇ〜。そうなんですね。となると、偶発的なのか。それとも、意図的なのかですね。」
「うむ。そこが分からんな。希少な資源地域は王宮直属の採取班でなければ、
手出しが出来ない様に、入場規制しておるし。後は、普通の資源しか無い。」
国王様も分からないといった顔で考え込んでしまった。
「そうですか。でしたら、僕も現地に行って見ます。
現場を見ないと分かりませんし、今だから分かる事もありますし。」
「そうか。それなら、ソアリスに言って、王宮承認の印を貰ってくれ。
それがあれば、一般人では入れない場所にも入れる。
コーヤであれば、色々と気付く事があるかも知れないからな。」
「ありがとうございます。」
僕は、国王様に一礼して、部屋を出た。
僕達が現場付近の海岸に到着した時には、既に無人島は、ほぼ全焼状態で、
辛うじて残存した部分もあるが、最後まで残るかは微妙な状況だった。
「うわぁ。ほぼ、全焼ですね。ソアリスさんは、ここに来た事は?」
「幼少時に来た様ですが、覚えていません。だから、以前の状態も分からないです。」
その時、後ろからアクセリアの騎士団数人が近付いて来た。
「(敬礼)ソアリス王女様、来ていただきありがとうございます!」
「現状を教えて貰えませんか?」
その後の説明によると、火災が発生したのが、約4時間前。
一時間後に第一報があり、現地に到着し、消火を開始するも、
抑え込むのが精一杯で、消火出来ないので、応援を呼ぶのと同時に、
最悪を考えて、王宮に報告したのが、一時間ほど前との事。
「そうですか。それで、結局、消火できずにほぼ全焼したと言う事ですね?」
「はい。大切な資源を無駄にしてしまい、申し訳ありません。(深々と頭を下げる)」
「その事は、致し方ありませんが、人的被害は無いのですか?」
「はい。・・・あ。いえ。1人被害者がいます。
エルフの女性で、海岸に全身やけどで気絶している所を発見され、
現在は、意識を取り戻し、治療も終えていますが、医務室で安静にして貰っています。」
「ありがとうございます。その方に会わせて貰えますか?」
「分かりました。こちらです。」
騎士団の人達の先導で、医務室に到着し、エルフの女性と面会した。
僕達が医務室に入ると、エルフの女性は、すごくビクビクしている印象を受けた。
「初めまして。この国の王女であるソアリスと言います。名を聞かせて貰っても良いですか?」
「はい。ここから山を1つ越えた先にある、セトライ集落から来たアシーナと言います。」
「アシーナさん。なぜ、ビクビクしているんですか?」
ソアリスさんが、その様に話すと、アシーナさんが謝罪を始めた。
「申し訳ございません!(深々と頭を下げる)」
「アシーナさん。何で謝るんですか?」
「火災の原因は私だからです。」
なるほど。アシーナさんが原因だったのか。
でも、僕としては、原因不明よりかは、原因が判明している方が、対処しやすいので助かる。
ソアリスさんも、同じ様に考えたのか、アシーナさんを責めずに、
状況の把握をするべく、アシーナさんに聞く。
「そうだったんですね。では、その時の状況を話して貰えませんか?」
アシーナさんは、経緯を話しだした。
「はい。私の住んでいた村が、オークジェネラルの襲撃を受けて壊滅して、
海に入って逃げている途中で、流されてしまい、気が付いたらあの島に着いていました。
とりあえず、服を乾かす為にも、焚き火をしようと、木の枝を集めました。
その最中、土の色が黒っぽいと思ったんですが、
詮索は後にしようと思って、木の枝に魔法で火を付けました。
最初は普通の小さい火だったのが、徐々に大きくなり、
これは、大変な事になりそうだと、海の水で消火しようとしたんですが、
逆に火の勢いが激しくなって、呆然と見守る事しか出来ませんでした。」
「そんな事が。でも、今までにも報告を貰っていますが、
その様な状態になったという話は聞かなかったですね。
コーヤ様は、今の話、どう思います?」
「そうですね。オークジェネラルについては、ここでは後回しにするとして、
とりあえず、現場に行って鑑定しないとなんとも言えないですね。
ただ、話を聞く限り、アシーナさんは、タイミングが悪かったのだと思いますね。」
「という事は、コーヤ様には心当たりが?」
「ええ。」
「でしたら、現場に行きましょう。アシーナさんの処遇は後ほど決めますが、
悪いようにはしませんので、安心して下さいね(にこ)」
「ありがとうございます。(頭を下げる)」
騎士団の人達が出してくれた船に乗って、現場の無人島に到着した。
「うわぁ。けほ。けほ。すごく、煙たいです。」
ユヅキちゃんは、色々な混じった匂いに悪戦苦闘している。
「ソアリスさんは大丈夫なんですか?」
「はい。魔法の鍛錬では、火を使いますし、他にも火事の現場にも行きますので、
ある程度は慣れていますね。ただ、この島の匂いは少し違う様に思いますが。」
足元を鑑定すると、土に原油が含んでいる事が表示される。
「そうですね。思っていた通りでした。これは、原油という液体です。
火に原油をかければ、火の勢いを強めるだけです。」
「その存在は初めて知りました。
という事は、この島の地下には原油が眠っているという事ですか?」
本当に初めて知ったらしく、ソアリスさんは原油について考えている様だ。
「調べてみないと分かりませんが、そうだと思います。
多分、過去の大地震で基盤に割れ目が出来て、少しずつ染み出したのだと思います。」
そこで、ユヅキちゃんが原油の利用法について聞いて来る。
「コーヤさん。どんな事に使えるんですか?」
「主に動力源かな。例えば、機械の動力源や灯りだったり、
魔法と組み合わせる事で、範囲攻撃出来る武器になるかもね。」
ソアリスさんは、僕達の会話を聞いて、分離方法を考えている様だ。
「そうなると、今後の国の発展のた為にも、是非、欲しいですね。
ただ、土と原油をどの様に分離すれば良いのでしょうか。」
「神殿の遺産にあるかも知れませんよ?今より高度な文明だった様ですし。」
「そうですね。探してみます。あと、何かありそうですか?」
「う〜ん。そうですね。土が焼けた事によって、肥料にも使えそうですね。
あとは・・・。うん?あれは・・・」
鑑定の範囲を、見晴らしが良くなった島全体にすると、中心地付近(海岸より)に
人工物の地下へと続く階段を発見し、その場所まで行き、気配を調べてみる。
「う〜ん。ここには、魔物が居そうですね。」
ユヅキちゃんは気配を読み取れる様になったようだ。
「気配を読み取れる様になったみたいだね。
戦闘型の魔物というよりは、森に住んでいた魔物が逃げたみたいだけど。」
「はい!苦労しましたけど、分かる様になりました!
ただ、精度が低いので、コーヤさんに追いつくにはまだまだですが。(苦笑)」
「まぁ。僕も、今の状態になるまで、二年以上かかっているから、
少しずつ、慣れていくしか無いよ。
さて、ソアリスさん、入ってみますか?」
「そうですね。報告する為に、確認しないとダメですから、行きましょう。」
ソアリスさんは決断し、僕達は慎重に地下に降りて行く。
ただ、見られている気配はあるが、戦闘を仕掛け来るわけでも無く、
最下層である10階まで、ピリピリムードが続いた。
最下層の扉を開けると、大きな部屋に300体程の魔物(動物)がいて、
中心にいた獣人の人が、僕達に向けて話しだした。
「人間よ。良く来ました。私は、猫獣人族の元長セレサと言います。
あなた方からは、嫌な力を感じません。そこでお願いがあります。
私が抱いている九尾狐の子供に、負の首輪を取り付け重体にさせた者がいます。
裁きたいので、その者を探し出し、私の前に連れて来て下さい。
この願いを叶えてくれたら、相応の報酬を出そうと思います。」
苦しそうにしている九尾狐の子供を鑑定すると、重体と表示され、
「体力回復高級ポーション」であれば完治可能とある。
「分かりました。とりあえず、この体力回復高級ポーションで完治させましょう。
その後に、解析させて貰えれば、見つける事も出来るでしょう。」
「本当ですか?では、そのポーションを渡して下さい。」
僕がポーションを渡すと、セレサさんが九尾狐の子供にポーションを飲ます。
すぐに効果が現れて、光が九尾狐の子供を包み込み、光が収まると完治していた。
「おおぉぉぉぉ!素晴らしい!この様なポーションがあるとは。」
セレサさんは、興奮しながら、九尾狐の子供を見た。
そのすぐ後に、再び光が九尾狐の子供を包み込み、
光が収まると、1段階成長した姿に変身していた。
「お兄さん、ありがとうございます。傷を治す事が出来ました(ぺこり)」
なんと、成長した事により、人の言葉を話す事が可能になっていた。
「すごぉぉぉぉぉい!!!!」
ユヅキちゃんはびっくりしているが、僕もびっくりしている。
完治可能と表示があったが、まさか、人語を話す事まで出来るとは。
「いやはや。人間よりは長い時間生きていますが、1段階成長するだけでも、
人間の生涯と同じ程の時間を要すのに、ポーションだけで達成してしまうとは。」
その点は不思議に思っていたので聞いてみた。
「その子の経験値が、成長する近くまで溜まっていたからでは?」
ところが、セレサさんは首を横にふる。
「それは違いますね。この子は、半年前に生まれて、ほとんど経験値が溜まっていません。」
「そうですか。う〜ん。まぁ、今はいいか。
それじゃぁ、解析させて貰って、犯人をさがしましょう。」
この後、鑑定と分析スキルを使って解析すると、
どうやら、前線組の人間の様で、人体実験の如くに使っていたと表示された。
この情報を基に、国王様に報告し、指名手配され、
翌日には前線組の人達の手で捕獲され、王宮に突き出された。
話を聞くと、前線組の間でも不況を買い、煙たい存在となっていたようだった。