最終更新日 2022/06/05

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2話 経緯

7月22日(金曜日)

事の発端は、5日前の7月22日(金曜日)に遡る。

終業式が終わり、家で昼食を食べて、以前から探していた使いやすい参考書を見つけに、
夏休みに入った事もあって、いつもとは違う本屋に足を伸ばそうと歩いている時遭遇した。

突然、『ラノベで車に轢かれて異世界転生する』ような場面が目に飛び込んで来た。

どうやら、中学生くらいの女の子が、後ろから追い掛けてくる人から逃げているようだが、
逃げるのに懸命で、視野が狭くなった状態で走っているらしく、周りが見えていない。

そんな時、いきなり、走って横断歩道でもない道路を横断しようとした。

しかも、パターンのように軽自動車が迫って来ていた。

女の子と車との距離は、あっ!と思った時には、10メートル位まで接近していた。

その時には、既に体が動いていて、ある理由で護身の為に習得した高速移動を使って、
我に返って車が接近している事に気が付いて、道路で固まってしまった女の子を
抱えて歩道まで連れ戻して事無きを得た。

車の方は、スピードが思った程出ていなかったようで、なんとか停車する事が出来たようだ。

その後すぐに、女の子を追っていた人達が到着した。

「お、お嬢さま!!大丈夫ですか!?」

車の方を見ると、車の運転手も安全な場所に停車させる事が出来たようで、車から出て来た。

当の本人は、放心状態から開放されずにぼーっとしている。

どうしようか、少し考えたが、周りの人が集まり出して面倒な匂いがして来たので、
気配を消しつつ、人混みに紛れて立ち去ることにして、問題なく離れる事が出来た。

その後は、予定通りに本屋に行って、いつも行かない場所だから、ぶらりと歩いて帰宅。

人助けした事は、面倒事に巻き込まれなかった安堵感が強くて、ほとんど忘れていた。

7月24日(日曜日)

それから2日後の昼過ぎ、助けた女の子と再会する事になる。

女の子SIDE:

「お嬢さま。

これだけ探しても見つからないのだから、この街には、いないのでは無いですか?」

「はぁ、そうなのかなぁ。

でも、諦めたくないの!それに、助けてくれたお礼も言っていないし。」

「お気持ちは、分かりますが。探している人の顔や氏名が分からなくては・・・。」

護衛の人は困った顔をする。

しかし、本人は顔を知っているという。

「ううん。顔は覚えているの。

助けてくれた時に、
そ、その(照れ)、お・お・お姫様抱っこをしてくれた時に顔は見たから。」

「どのような顔だったのですか?
私達が到着して時には、お嬢さまを助けてくれた人は居なかったので。」

その時、反対側の歩道を歩いている光矢に気が付く。

「(反対側の歩道を見て)あ!あの人です!
反対側の歩道を、わたし達とは逆方向に歩いているのがその人です!」

「(反対側の歩道を見て)うーん?どの人が恩人さんなんですか?
服はどんなのを着ていますか?」

「追いかけましょう!見失ってしまいます!(駆け出す)」

女の子は逃したくない一心で、走り出した。

「あ!ちょっと!お嬢さま〜〜〜!(追いかける)」

光矢SIDE:

そんな会話をしていたとは知らず、前から走って来た女の子に呼び止められた。

「はぁ、はぁ、はぁ。あ、あの!少し良いですか?」

「(キョロキョロ)え〜と、僕の事?まぁ、急いでいないから良いけど。何が聞きたいの?」

女の子は、僕に何かを聞きたいようだ。

「はい!そうです!ありがとうございます。(ペコリ)

聞きたいのは一点です。

2日前に、100メートルくらい後方で、
車道に飛び出た女の子が何者かに助けられると言う出来事があったんです。」

「あ〜〜、そう言えば、TVで報道していたね。なるほど、僕に目撃者を聞いてるの?」

「違います。女の子を救助した人を探しているんです!」

この時に、どうやら、数日前に助けた女の子だと気が付いた。

「う〜ん、TVで見ただけだし、探し人の事は分からないかな。ごめんね?じゃ。

(まさか、助けられた時に見た僕の顔を頼りに見つけたんだろうか。とはいえ、
夏休みはまったり過ごしたいから、申し訳ないけど、スルーしよう。)」

ところが、護衛と思われる人物に前を塞がれてしまう。

「(前に割り込み)待って下さい。私は、こちらのお嬢さまの警護を担当している者です。
お嬢さまの後ろから見ていましたが、ご本人様ですよね?」

「(ひやひや)なぜ、そう思うんですか?」

「私は仕事で色々と人を観察するんですが、お嬢さまが恩人を探していると話しをした時、
一瞬ですが迷いがありました。その後、これも一瞬ですが、面倒事を避けたい顔をしました。」

「(後ろからの視線)じーーーーーーーー。」

これは、今回だけでは諦めないだろうと思ったので、早々に降参する事にした。

「はぁ。分かりました。僕の負けです。

あの時は、人垣が出来て大変な事になりそうだから、
立ち去ったんですが、それにしても、良く、僕の顔を覚えていましたね。

放心状態だったから、覚えていないのかと思っていたんだけど。」

「やった〜♪(ぶい)はい、他の事は、うっすらにしか覚えていないのですが、
助けてくれた時の顔だけは、なぜか、鮮明に覚えていたんです。

あの、それで、時間に余裕があれば、これから、わたしの家に来てくれませんか?」

「これから?」

「はい。両親からも恩人が見つかれば、是非、家に連れて来て欲しいと言われていますので。
あと、お礼をしたいですし。どうでしょうか?(上目遣い)」

「(諦めて)分かりました。行きましょう。ちなみに、家は遠いのですか?」

「そこまで、遠くないです。ここからなら、歩いて15分くらいです。

(あれ?何か忘れているような・・・。)あっ!ごめんなさい。名乗っていなかったですね。
わたしは、野鳥彩野(のとりあやの)と言います。」

「私は、お嬢さまを警護している霧咲魅花(きりさきみはな)です。」

「僕は、水晶光矢(すいしょうこうや)です。」

自己紹介しながら、歩く事20分弱で森に近い場所に建てられた豪邸に到着した。

野鳥邸

「(うわぁ。お嬢さまって言っていたから、なんとなくは分かっていたけど。)」

二人が中に入って行くので、一緒に中に入る。

「ただいま〜!」

「おかえりなさい(笑み)。見つけたのね。そちらの方が彩野を助けてくれた人?」

「初めまして。水晶光矢と言います。(お辞儀)」

「初めまして、私は彩野の母親です。娘を助けてくれてありがとうございます。(一礼)
では、夫も待っていますし、立ち話じゃなくて座ってお話しましょうね。」

頭を下げてお辞儀をすると、先頭に立って歩き、一つの部屋のドアを開けた。

「(かちゃ)おまたせ。連れて来たわ。どうぞ、入って。」

「失礼します。」

そう言って、部屋に入ると、アンティークと思われるイスとテーブルがあり、
一人の男性がイスに座りながら飲み物を飲んでいた。

「(かちゃ、カップを置く)来たね。(立ち上がり)初めまして、僕は彩野の父親だ。
今回は、娘を助けてくれて本当にありがとう。(一礼)」

「私も改めてありがとうございます。」

二人から何度も頭を下げられて困惑して、落ち着かなくなった。

「頭を上げて下さい。頭を下げて貰う為に来たわけでは無いですから。」

そこへ、彩野さんから助け舟が出た。

「そうだよ?お父さんもお母さんも光矢さんが困っているよ?」

「おお!これはすまない。どうぞ、イスに座って。」

「私は、飲み物を持って来るわ。光矢さんは何が良いかしら?」

「それでは、紅茶をお願い出来ますか?」

「分かったわ。ちょっと待っててね。」

母親は皆の注文を聞くと出て行ったが、どうやら、自分達でしているようだ。

「メイドや家政婦などを雇っていると思ったかい?」

「え!?」

「なにか、不思議そうな顔をしていたからね。」

「すみません。」

顔に出ていたかと反省した。

「いや。別に構わないよ。

昔は、繁盛していて、別邸として建てたけど、財政が苦しくなって、
日常は自分達が掃除をして、大人数の時にはヘルプを呼ぶ形になっているんだ。」

「家の事は今度でも良いよね?光矢さん、何かお礼で欲しい物ありますか?」

「ああ。そうだな。娘を助けてくれたお礼に、
君の欲しい物を渡したいから教えてくれないかな?」

「欲しいものか。う〜ん、基本的に現状に満足しているからなぁ。」

僕は、今、最低限の生活出来ているし、問題があるわけではないから、
欲しい物と言われて、何も頭に浮かばなかった。

「(かちゃ)何でも良いですよ?どうぞ、飲み物を持って来たわ。」

「ありがとうございます。」

「何でも良いと言われると、余計に悩みますね。

そもそも、彩野さんが歩道から遠くない場所だったから、引き戻せる事が出来たのであって、
自分的には、お礼を言われて終わりと言う感覚なんですよね。」

彩野さんの父親は、少し考えて話し出す。

「光矢君、威張りすぎも駄目だけど、逆に謙遜し過ぎも駄目だよ?

相手方の好意を無意味にしてしまう。それに考えて欲しい。

彩野が車道に飛び出し、君に助けられた事は事実だ。

当然、話題に上がるだろう。

その時に、お礼を言っただけで帰したら回りはどう受け取ると思う?」

そこで、生前のおじいちゃん達から言われていた事を思い出す。

「なるほど。確かに事情を知らない人は、勝手に妄想して好きに言いますからね。
(閃く)今、ひとつ、思い付いたのでそれでお願いします。」

「(メモ紙を用意して)言って良いよ。」

「今、TVなどでCMしている、VR機器本体と
「Infinite Alternative world(インフィニティ・オルタナティブ・ワールド)」の
特典付きVRゲームソフトをお願いして良いですか?

なかなか、値段が高くて買えなかったので、お金を貯めて買うつもりだったんです。」

彩野さんが興奮したように話し出す。

「ああ!TVのCMで見ますけど、面白そうですよね!

わたしのクラスメイトの中には、遊んでいる人もいて昼休みとかで、話聞いたりすると、
羨ましいなって思ってしまいます。」

「あれ?彩野さんは今、何年生ですか?」

「中学2年で、5月に14歳になりました。」

「ああ、微妙な年齢ですね。ゲームって結構、高校生以上を対象にしている感じがしますし、
VRゲームは特に残虐シーンをスキップしにくいでしょうしね。」

「今後の参考に聞きたい。光矢君は、高校生以下の取り扱いについてどう思う?」

「僕ですか?まぁ、簡単な処置として、保護者同伴を義務付けるですね。

保護者と遊戯者をリンクしたら、高校生以下の設定にして変更不可にする。

あとは、同じ高校生以下の人達専用サーバーを作る。クレームも少ないでしょうし。」

「なるほど。その方法であれば、彩野を安心して遊ばせる事が出来そうだね。」

「え?!遊んで良いの?」

びっくりしつつも、顔は満面の笑顔だ。

「ああ。彩野には、親の都合を押し付けて、怖い思いをさせてしまったしね。

だから、あの件は無かった事にするから安心して良いよ。

ただ、監視は付けさせて貰うよ?
霧咲さんにお願いしたいのだけど、どうかな?」

突然、指名された霧咲さんは慌てている。

「わ、わたしですか!?
あの、でも、今までほとんどゲームを遊んだ事が無いので、勤まるかどうか。」

彩野さんが霧咲さんを励ます。

「大丈夫だよ!魅花さん!
遊んでいるクラスメイトに聞いたけど、あのゲームにストーリーは無いんだって。

だから、極端な事を言うと、冒険に出なくても問題ないの。

だから、ね?一緒に旅に出よう?魅花さんが入れば、すごく、心強いし♪」

少し、考えて仕事を受ける事にしたようだ。

「分かりました。その、役目お受けします。(一礼)」

「ははは。そんな、畏まらずにして良いのに。

さて、そういう事だから、光矢君、彩野と会う事があればよろしく頼むよ。」

「はい。とはいえ、ランキング狙いでは無いので、
まったり、スローライフを満喫出来ればと思っていますが。」

「光矢さん!会った時はよろしくお願いしますね!で、スローライフって何をするんですか?」

思い付かないのか、色々と考えている。

「ポーション作成・鍛冶・建築とか前線に出ないで、好きな事して過ごそうかなって。」

「あ〜!それも良いですね♪」

この後、夕食をご馳走になり、夜9時頃帰る事になった。

「光矢君、話が弾んでこんな時間になってしまってごめん。(苦笑)」

「いえいえ。僕も面白い話を聞けましたし、今は夏休みですから大丈夫ですよ。」

「そうか。ありがとう。先程、手配したから3日程で家に着くと思うから。」

「光矢さん!今度はゲームの世界で会いましょう!」

こうして、野鳥家から帰宅した。

7月26日(火曜日)

2日後の午後2時頃

(ピンポーン)

「はーい。どちら様ですか?」

「アクアレストコーポレーションの者です。」

(かちゃ)

「あ、こんにちは。水晶光矢様ですか?

この度は、我が社の製品をご希望されている
という事で、VR機本体とVRゲームソフトをお持ちしました。」

「は?えーと、そのような話聞いていないのですが?
とりあえず、中でお話を聞いても良いですか?」

「はい。分かりました。」

「なんでアクアレストの人が来るんですか?」

「2日前に、我が社のスポンサーの一つであるバーディリアの会長から電話があり、
娘が車に轢かれるところを助けて貰ったから、お礼の商品として本人希望のVR機本体と
VRゲームソフトを自宅までの配達と設置と設定をして欲しいと言われまして。

要望の品が当社に在庫があったので、今日、伺ったわけです。」

「え?もしかして、バーディリアの会長って、野鳥さんですか?」

「はい、そうですよ。

スポンサーになって5年程経ちますが、色々とアイディアを提供して貰えるので、
我々としては業績も改善されましたし助かっています。

なので、お返しをしたいと思っていたのですが、野鳥会長からお願い事も無く
機会も無くだったのですが、今回、やっと恩返しが出来て良かったです。」

社員の人は心底ホッとしたような顔をしている。

ここで初めて、色々な事を聞かれた意味を理解した。

「なるほど。そうでしたか。

てっきり、宅配便で送って来るものだと思っていたので、びっくりしました。

それと、アクアレストと繋がっていたとは知りませんでした。」

「まぁ、普通の人はスポンサーの事まで考えないですから。
それでは、設置と説明、設定を行おうと思いますが、よろしいですか?」

「はい。お願いします。」

説明を受けながら、1時間程かけて機器の設置や個人情報の登録・設定を行っていく。

「ふぅ。終わったぁ。時間がかかるとは思っていましたけど、思っていた以上ですね。
特に、生体認証に20分も使うとは思いませんでした。」

「お疲れ様でした。このUltimate版は、通常品と比べて必要設定項目が二倍近くあり、
どうしても、時間がかかってしまうんですよ。

でも、その分、一度認証完了すれば、
最大限の効果を出す事が出来ますよ。ここまでで、質問ありますか?」

「う〜ん、そうですね。やはり、コード類は正規品の方が良いですか?」

「はい。そうですね。正規品を使った方が不具合や突発的な事故が少ないと思いますね。」

「なるほど。分かりました。」

「では、今のところは問題なかったですが、使って見て問題が見つかった時は、お電話下さい。
3年保証もありますし、安心してご相談下さい。」

「今日はありがとうございました。」

その後、ゲームの時間を増やすべく、夏休みの宿題を多めに消化することにした。

それにしても、今日はビックリする事だらけだ。

本体製造会社の社員が来たのもそうだけど、
VR機器本体もゲームのパッケージも最上位モデルだった。

確かに、野鳥さんにお願いしたけど、さすがに、最上位をプレゼントしてくれるとは。

ネットで調べると、VR機器本体が廉価版で5万円、通常版は15万円、Ultimate版は30万円で
自分では到底手が出せない値段だ。

とはいえ、自分としても、出来れば新品や新古品が手に入れば良いなぁとは思っていて、
ネットの懸賞などに応募して頑張ったけど、まさか、タダでUltimate版が手に入るとは。

ゲームソフトも調べると、Ultimate版で新品が3万円となっていた。

ちなみに、他のランクの新品価格は、廉価版は3千円、通常版1万円だった。

どうやら、発売当時、通常版・Ultimate版共に、ダウンロード版が無く、
パッケージ版のみの販売だったようで、システムの不具合が発売間近に見つかり、
2月になって、廉価版のダウンロード販売と通常版・Ultimate版のダウンロード販売を開始。

今では、ダウンロード販売が安定した為、パッケージ版は販売終了の様だけど、
中古市場ではUltimate版が定価の倍の6万円でも売れているようで、謎の現象が起きている。

あと、ランクによる違いは、特典にあって、廉価版には特典は付かない。

通常版は、初心者用消耗品付き、5月以降のバージョンで、何点か特典が追加されたようだ。

Ultimate版は今月に発売したばかり。

過去、半年間に登場した課金の私服ファッションやホームに飾る課金アイテム、
期間限定で登場した課金アイテム等々を詰め込んだ福袋的なバージョン。

宿題を片付けて、夕食を摂り、寝る前にゲームの基本的な情報をネットで見て就寝。

そして、冒頭(1話)に話は戻る。

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