ソアリスさんが手を挙げる。
「次に私からコーヤ様へお願いがあります。知恵を貸して欲しいのです。」
「知恵?どういう事ですか?」
「ヴィオ団長に、相談する機会があって、その時に、コーヤ様を推薦して貰いました。
コーヤ様なら、アイデアが豊富だからヒントを貰えるかも知れないと。」
「ちょっと!ヴィオさん!」
「本当の事だろ?僕達が考える事よりも、斜め上を行っている。
この問題の突破口を開けるのではないかと、期待しているんだ。」
ヴィオさんは涼しい顔をしている。
「はぁ。それで?どんな問題なんですか?」
「今から、2年前に私の従妹(いとこ)であるエリシアが誘拐されました。
多くの人員を使って、潜んでいられる場所を探しましたが見つかりませんでした。
ただ、1週間程前に私達が着けている王家の指輪が反応したんです。」
「反応?どのように?」
「王家の指輪は、持ち主以外の人が触ると反応する様に作られています。
誘拐などの犯罪を、いち早く知り、対処出来るようにと教えて貰いましたが、
自分達が考えているよりも、不完全な物だったようです。
話を戻しますと、2年間、指輪も一緒に探しましたが、見つかりませんでした。
ところが、1週間程前にフィンテルへ用事で打ち合わせに行った際に、
微量ですが反応があり、ヴィオ団長に相談しました。」
「なるほど。その時にヴィオさんが僕を紹介したと。」
「別にね。僕は意味もなくコーヤ君を紹介しないさ。街の清掃する依頼を受けていただろ?
もしかして、その回収品の中にあるんじゃないかと思ったんだ。」
「あー。なるほど。ちょっと、調べますね。(指輪・・・指輪・・・)うん?
もしかして、これですか?(エメラルドの指輪を出す。)」
「あ!これです!(指輪を見ながら)でも、エリシアのかどうかまでは、分かりませんね。」
「これは、どこで、手に入れたのじゃ?」
「多分ですが、フィンテルの東地区でだと思います。」
「ふむ。東地区は工房や素材倉庫があるし、隠れ蓑にはちょうど良いかも知れないね。
商人の地区にも倉庫はあるけど、出し入れが激しいし、確認作業があるから、
潜伏先には向いていなさそうだ。」
ヴィオさんは、東地区を思い浮かべながら話をする。
「(確認する)反応していたのは、この指輪ですね。
仮にエリシアのだとすると、
まだ、フィンテルに監禁されていると言う事でしょうか?」
ソアリス王女様が質問して来た。
「そもそも、エリシアさんは、なぜ?誘拐されたのですか?」
「エリシアは、予知能力を生まれながらに有しています。」
「そうでしたか。
であれば、エリシアさんは、誘拐される前に、
この国にとって重大な危機を予知したのかも知れませんね。
その事を知った犯人は、対処されては困るから誘拐した。
仮説が正しいとすると、
もし、エリシアさんがフィンテルにいるなら理由は、そこにありそうです。」
「ソアリス王女様、エリシア様が何を予知したのか分かりますか?」
ヴィオさんが、ソアリス王女様に質問をした。
「いえ。エリシアは出来るだけ正確性を持たせる為に、紙に記録しておき、
確実だと思われる情報だけを、私達に伝えて来ています。
あの時は、その様な事は無かったと思います。」
「わしも聞いてはいないぞ。王妃はどうだ?」
「ええ。私も聞いていないわ。」
「あの。エリシアさんのご両親に先にとはならないんですか?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
「そうじゃ。予知に関しては、まず、わし達に伝える事になっている。
国王が、緊急事態の情報をいかに早く入手し、対策を練る事が出来るかで、
国の運命が左右されると言っても過言では無い。
王宮にある図書館に残る歴史書にも、対応の遅れから国を滅亡させた例が書かれておる。
その様な事が無いように、重要な情報は、王家に先に伝えるルールになったのじゃ。」
この国は、過去の教訓を活かして、現在のシステムを作ったようだ。
「この国を混乱させたい団体が、スパイや内通者を使って王家より先に情報を入手し、
エリシアさんを誘拐して撹乱する。
危機に陥る情報を知った時には、手遅れになっているのを、犯人達は狙った様に思えます。」
「確かに、筋が通っていますね。
と言う事は、エリシアが見た予知は、魔獣に関してなのでしょうか?」
「可能性は高いと思いますが、他の可能性もあるかも知れません。
まずは、フィンテルの東地区を捜索して、エリシアさんを見つけて確認する事です。
まぁ、もし、魔獣の事であれば、現在の状況は、犯人側にとって願ったり叶ったりなので、
相当、油断していると思いますね。」
国王様は心配そうに聞いて来る。
「魔獣討伐は、上手く行っていないのか?」
「そのようですね。だいぶ、挑戦者が減っているようです。」
「そうか。そちらも気になるが、まずは、エリシアの方じゃ。
フィンテル騎士団長ヴィオ、コーヤの方が地理にも通じているだろうから、
そなた達に任せる。」
「はい。(はっ!)」
「あの!お父様!私にも何か手伝いをさせて下さい!」
「分かった。良いじゃろう。ただ、危険な事は極力回避し、2人の邪魔はしないように。」
「お父様。ありがとうございます。」
「では、国王様。僕達はフィンテルに戻ります。
まだ明るいので、情報を集められそうですから。
ソアリス王女様は、エリシアさんの部屋に、犯人の足跡が無いかを探して下さい。」
「えーと、犯人の足跡と言うのは?」
「そうですね。例えば、当日の日程や手紙を調べるだけでも、日常の動きとは違う
動きが分かると思います。おかしいな?と感じた事を書いて教えて下さい。」
「分かりました!お役に立てるように頑張ります!」
この後、馬車に乗ってフィンテルに戻って来た頃には暗くなっていた。
「う〜ん(伸びをする)動くのは明日からになりそうですね。」
「そうなりそうだね。コーヤ君は明日、どのように動くつもりだい?」
「一応、カメラを飛ばそうかと考えています。」
「カメラって、ソルゲンが闇討ちした時のかい?」
「ええ。まずは、上から確認して、
当たりを付けたら張り込んで偵察と言う方法を取ろうかと。」
「僕達、騎士団がする事は?」
「今のところは、犯人を探していると思わせない方が良いですね。
だから、騎士団は通常の仕事をして下さい。
働いて貰うのは、相手が動いてからですので。」
「分かったよ。明日の情報は、僕にも貰えるんだろ?」
「もちろんですよ。情報の共有をしないと問題が起きますから。
では、おやすみなさい。」
「ああ。2人共、おやすみ。」