最終更新日 2022/06/05

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14話 ユヅキ

8月1日(月曜日)

午前10時

「セリナさん。おはようございます。助けた子は起きていますか?」

「コーヤさん。おはようございます。
朝食を下げに行った担当がきれいに食べてあったと言っていました。」

「それは良かった。話をしても問題なさそうですね。」

セリナさんと一緒に、助けたユヅキと言う少女の個室に入った。

「ユヅキちゃん。お話したいけど大丈夫?」

「はい。大丈夫です。」

「初めまして。僕はコーヤ。別の仕事で南地区に行った時に、偶然見つけたんだ。

それで、言いたくなければ無理にとは言わないけど、なぜ、
君が瀕死の状態だったのかを教えて欲しいんだ。状況次第では、助けて上げる事も出来るし。」

ユヅキと言う少女は、困惑しているようで、話をしてくれなかった。

「(無言)」

「う〜ん。じゃあ。僕は出ているね?セリナさんなら話しやすいと思うし。」

イスから立ち上がろうとしたら服の裾を掴まれた。

「あの。違うんです。ただ、信じてくれないと思って。」

その時、ドアをノックして、返事をするとヴィオさんが入って来た。

「お。ちょうど良い時だったようだね。僕も話を聞かせて貰っても良いかな?」

「ヴィオさんは、どこで知ったんですか?」

「団員が、コーヤ君が血を流した女の子を抱えて、神殿に駆け込む所を見てね。

昨日の時点で、僕に話が回って来たんだけど、すぐに行っても話は聞けないと思ったから
今日の朝早くに来たという訳さ。」

「なるほど。さすがは、騎士団長ですね。すごい考察力です。」

セリナさんは、ヴィオさんに感心していた。

「司祭様。僕を褒めても何も起こりませんよ?それよりも、話を聞かせて貰っても良いかな?」

1代男爵夫妻殺人事件の真実

ユヅキは、一回頷いて、語り出した。

「はい。わたしの家は、父が10年前に功績を挙げて男爵になりました。

ただ、母は常々、1代限りだから奢らないようにと話していました。

両親は元々冒険者として生活していたのですが、
わたしが大きくなると自衛の為にも、戦闘や色々な事を教わりました。

最初は、嫌だったけど、成人したら一人で食べて行く事になるからと母に言われて、
訓練は欠かさず行いました。それ程、無理な訓練はしなかったので、なんとか出来ました。

ところが先月の初め頃、父の弟と言う人が訪ねて来ました。

楽しくお酒を飲んでいると思っていたんですが、母から、決めていた危険信号が来たので、
すぐに、誰にも見つからずに逃げる事に成功して、身を潜めました。

その後は、ゴブリン位は倒せるようにと、母から攻撃術を教わっていたので、
慎重に倒して、魔石を取って冒険者ギルドに売ってなんとか、路地裏生活をしていました。

ところが、昨日のゴブリンは、いつもと違って、なぜか、なかなか倒れませんでした。

1体を倒す為に頑張っている間に、もう1体来ている事に気が付かず、
最終的に2体を相手にする事になって、後退しました。

相手の反撃を受けたけど、その時は、防具で問題なかったので、逃げる事に成功したんですが、
近くにもう1体いて、防具を壊され、逃げている時に脇腹に大きなダメージを貰いました。

なんとか、街に戻る事が出来ましたけど、でも、体力が限界で・・・。」

「ありがとう。なるほど。だから、君があの場所で倒れていたのか。」

「それにしても、その叔父と言う人は、制度を知らないのでしょうか?」

セリナさんは、ユヅキちゃんの叔父の行動を不思議がっている。

「いや。司祭様。知っていても何かを手に入れる為に、この子の両親が邪魔だったのしょう。」

「もしかして、騎士団長は何か知っているのですか?」

「心当たりはありますね。見廻組が北区貴族地域を回っていると、相談を受けたようです。

最近、ある1軒で人の出入りが多いので心配だと言う内容でした。

たぶん、この子の家なのでしょう。それにしても、何を探しているのか?」

「君は何か知らない?」

ユヅキと言う少女に聞いて見たところ、

「逃げた後、親の事が心配だったので、こっそりと家の中をうかがったら、
これで、この家は俺の物だ!って言っているのを聞きました。」

と言う答えが返って来た。

「うーん。と言う事は、男爵と言う爵位目的ではなくて、
家もしくは土地に、何か重要な物が眠っていると考えているのか。」

「それとも、誰かにそう吹き込まれたかですね。」

「まぁ、なんにせよ。その男は、国王様が男爵に任命した人物を、
私利私欲で殺害したのは、罪に値するから、捕縛次第、国王様の判断を仰ぐ事になる。」

「しかし、騎士団長、相手がそう簡単に捕まるでしょうか?」

セリナさんが捕まらないんじゃないかと心配している。

「確かに、司祭様の言う通り、捕まってくれないでしょう。
相手から僕達の方へ自ら来てくれると、嬉しいんだけど。コーヤ君、何か、策はないかな?」

「そこで、僕に振らないで欲しいんですけど。確認ですけど、相手はユヅキちゃんを
探しているんですか?探しているのなら、利用出来そうですが。」

「ふむ。なるほどね。コーヤ君は相手に来て貰って、現行犯逮捕しようという訳だね。

相手はこの子が逃げたのは知っているし、まだ、生きているのなら、将来の憂いを無くす為にも
殺そうと思っているだろうから、簡単にかかるだろうさ。安全に進めないとダメだけど。」

「では、相手に幻術系の魔法をかける。そして、あらかじめ作った専用の部屋に通す。
相手が刃物で刺した時に、タイミングを見計らって現行犯逮捕と言うのはどうですか?」

僕が提案すると、ヴィオさんはそれの案を使うようだ。

「良いねぇ。よし!それで行こう!
餌を撒いて、上手く行けば今日の夜にでも動き出すだろう。」

「あ・・あの!わたしの事なのに、ありがとうございます!」

ユヅキちゃんは、恐縮しながらお礼を言う。

「気にしないで良いさ。これは、治安にも関わる問題だからね。」

僕達は、早速、準備を開始した。

男爵邸


カルスSIDE:

一方、ライエル1代男爵夫妻を毒殺した、
カルスは男爵邸(北区貴族地域)に居座っていた。

「カルス様。探していた男爵の娘ですが、見つかったようです。」

「おー!やっと見つかったか!そして、どこに居た?」

「聞き込みの話だと、脇腹辺りから大量の血を流しながら、
南地区の裏側をふらふらしながら歩いていたようです。

その後、確認すると、血痕があり途中で痕跡は無くなってはいますので、誰かが
助けたかも知れませんが、血の量が多いので、今頃、亡くなっている可能性が高いかと。」

「くくく。そうかそうか!これで、この家も土地も俺の物になった!」

「失礼します!先程、騎士団の見廻組が来まして、記憶喪失の女の子が神殿にいて、
調べたら、貴族地域の子らしいのですが、家の人が心配していると思うから、
この地域を廻って、聞き込みをしていると聞かれましたが、いかがしますか?」

「そうか。で、どう答えたんだ?」

「はい。女の子の事は知らないが、情報が入ったら神殿に報告すると答えときました。」

「よし。合格だ。どうやら、あの娘。悪運は強いようだが、今日の夜に自分で決着をつける。」

女神アーシェシュトラ神殿


コーヤSIDE:

時間を飛ばして、現在は、夜の10時。

今回は早めにログアウトして休憩し、先程、戻って来た。

こんこん

「あ。来たようだね。」

「(がちゃ、神殿の入り口を開ける)いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「司祭様。このような時間にすみません。

先程、仕事から帰って来ると執事から我々が探している女の子が、
神殿に保護されていると聞きまして、申し訳ないとは思ったのですが、来たしだいです。」

「そうでしたか。では、ご案内しますので、付いて来て下さいね。」

「(小声で)よし、僕達も移動しよう。」

5分程で部屋に辿り着く。

「どうぞ。こちらの部屋になります。寝ているので静かにお願いします。
どうでしょうか?探していた子供ですか?」

カルス達に幻術でベッドに寝かせている人形を、ユヅキと言う少女が寝ていると思い込ませる。

「はい。確かに探していた子です。保護していただきありがとうございます。助かりました。」

「いいえ。私達本来の仕事ですから。あら?何かあったようですね。少し、失礼します。」

司祭が神殿入り口で、問題でもあったようで、部屋から退出した。

それを、カルスの連れて来た一人が、廊下や周りに人が居ないかを確認する。

「どうだ?誰も居なくなったか?」

「はい。ここには誰もいないです。」

「そうか。くくく。何も知らずに良く寝てる。
残念ながら、もう、お前が目覚める事は無い!はっ!」

カルスが、人形の口を手で塞ぎ、ベッドに剣を突き立てると、
幻術のユヅキは、声を上げられずに、心臓を貫かれて死んでしまう。

「くくく。これで、正真正銘、あの土地と建物は俺の物になった!明日から宝探しをするぞ!
なんでも、一生楽して生きていける程らしいからな。」

「残念だが、お前達には強制労働に行って貰うから、楽は出来ないぞ。」

「誰だ!」

カルス達3人は、声のした戸の方を向く。

「僕は、この街の騎士団長のヴィオだ。お前達の話は聞かせて貰った。」

「騎士団の団長だと!なぜ、お前がいる!?」

「さて、お前達には、詰め所下の牢獄で寝て貰い、明日の朝に国王様に罪を裁いてもらう。
いつまでも、騒いでもらっていても困るので、寝て貰おう。」

「スリープ」

僕が3人の男を眠らると、騎士団員が報告に来た。

「団長。失礼します。目的の家には6人の男がいましたが、
先程、捕縛して牢獄に入れました。」

「そうか。ご苦労さま。すまないが、そこで寝ている3人も牢獄に入れて置いて。」

「はっ!了解です!」

こうして、ライエル1代男爵夫妻殺害事件の犯人を逮捕する事が出来た。

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