8月2日(火曜日)
昼近くにログインすると、ヴィオさんによって王都に連れて行かれた。
「あの。ヴィオさん?なんで僕まで行かなくちゃ行けないんですか?」
「国王様への今回の事件報告で、君の事を話したら、すごく興味を持たれてね。
一緒に連れて来て欲しいと国王様から言われているから断れないんだよ。」
「はぁ。そもそも、断る気ないですよね。」
呆れながら言うと、ヴィオさんは、全然、悪びれた様子もなく話す。
「まあね。今回の一連の問題解決の功労者はコーヤ君、君だ。
どのみち、王都に呼ばれるのなら早い方が良いと思ってね。」
「あの。わたしはコーヤさんが居てくれる方が心強いです。」
被害者であるユヅキちゃんも一緒に馬車に乗っている。
「ほら。ユヅキちゃんもこう言っているしさ。」
こんな感じに話をしていると、王都が入った。
「へぇー。王都には初めて来ましたけど、フィンテルとはやはり違いますね。」
「もちろんだよ。人数は10倍違うし、国内最先端技術などが集まっているからね。」
「ほぁ〜。なんか、きらきらしてます。」
ユヅキちゃんは、王都に来た事が無いらしく、キラキラした目で外を眺めていた。
「ふふふ。ユヅキちゃんも気に入ってくれて良かった。あ。もうすぐで王宮だ。」
「あれ?王宮で裁判するんですか?」
「ああ。
罪の種類によって裁判所が変わるんだけど、今回は、一番罪が重いから王宮でするんだ。」
王宮に到着した。
「長旅お疲れ様でした。今回、判決場所までの案内を任されました、ザルバと言います。」
「よろしく頼むよ。」
案内人に付いて行って10分で目的地に着いた。
「(ノックする)失礼致します。ヴィオ様達が到着したのでお連れしました。」
「そうか。入ってくれ。」
ユヅキちゃんは、国王様の前に用意された席に着席し、
僕達は、部屋の右側にあるユヅキちゃん側の傍聴席に座る。
「よし。それでは始めよう。まず、双方の言い分を聞く。そちらの男から名を頼む」
「はっ!私は兄ライエル男爵より男爵位を譲渡されたカルスと申します!」
「わたしは、ライエル男爵の娘、ユヅキと言います。」
ここで、捕縛したのは9人なのに、カルスを除いて8人が、
この場にいないのが不思議に思ったので、ヴィオさんに聞いてみた。
「ああ。それは、既に個別で刑が確定しているんだよ。
それに、最高刑はカルス一人だから、王宮で判断する必要がない。」
「なるほど。それで、ユヅキちゃんへの保障はどうなっているんですか?」
「8人には、関与していた度合いで資産の没収になった。カルスは本宅もあるようだし、
それに首謀者だから、妻や子達には申し訳ないが全財産没収になるね。」
「まぁ、とばっちりを受けた人は可哀相だけど、今までに良い生活していたんでしょうし。
でも、全て合わせると大きい金額になりません?」
「うん。なるね。だから、没収された財産に関連のある人や建物があるから、
全てが執行されるには最低でも一ヶ月かかりそうだ。」
「うわぁ。この案件を処理する人は大変だ。
提案なんですけど、本宅がどの様な建物かは知りませんが、
クランなどの拠点に出来ませんか?」
「(少し考えて)なるほど。場所次第では、可能かも知れないね。」
この様な会話をしていると、裁判が進んでいた。
「ふむ。さて、カルスよ。そなた、ユヅキを殺そうとしたそうじゃな?」
「いえ!そのような事は!この場にいる事こそ、その話が嘘だと言う証です。」
「その割には、ユヅキが先程、
この部屋に入って来た時、相当、狼狽えていたように思えたが?」
「そ・・それは・・・。」
「まぁ。その事は、些細な事だから追求せずに置こう。
そなたは、なぜ、王宮裁判になったと考えている?」
「えーと。それは。」
「(少し考えて)ふむ。聞く相手を間違えたか。ユヅキよ。答えてみよ。」
「はい。今回の焦点は、国王様が任命した1代男爵の地位を不当に手に入れた事です。」
「その通りだ。そなたは、先程、男爵位を譲渡されたと言ったが、あれこそ、罪じゃ。
今から10年前に、ライエルが魔物の氾濫で多くの命を救ってくれた事を感謝して、
新設された地位なのだが、カルスよ、知らなかったのか?」
「知っています!」
「では、本人以外が男爵位を名乗った時、理由に関わらず罰を受けると書いたのだが、
どのような罰か言ってみよ。」
「(汗を垂らしながら答えられず)」
「はぁ。なんだ、この事まで知らぬとはな。すまんが、ユヅキよ。答えてくれんか。」
「はい。罰は一律で強制労働となっています。」
「カルスよ。聞いたか?男爵位を欲しがりながら、注意事項を知らぬとはな。おかしな話だ。
もう、判決は聞かなくても分かるじゃろ?これから、お前には罰を受けて貰う。
最後に言いたい事があれば聞くぞ?」
カルスは、最悪の強制労働だけでも逃れようと、国王に頼み込む。
「(国王に深々と頭を下げる)今回は、申し訳ありませんでした!
心を入れ替えて国の為に頑張るので、どうか!強制労働ではなく、別の罰にして下さい!」
その行動を見た国王は、哀れな目を向ける。
「お前は、なぜ、わしに謝るのだ?
わしはただ、決められた範囲で最上な判決を言い渡したに過ぎぬ。
本当に謝るべきは、わしではなく、ユヅキにじゃ。幸せな時間を奪ったのだからな。」
しかし、国王からは減刑ではなく、無情な言葉のみが話されて絶望する。
「(崩れ落ちる)」
「うむ。言いたい事はそれだけのようじゃな。これにて、裁判を終了する。
罪人に刑を執行せよ。」
このひと言で、裁判は終了し、カルスは刑務所に連れられて行った。
もし、この時に恥を承知でユヅキに謝っていたら、かすかな希望があったかも知れない。
しかし、自分自身の事しか考えられず、その機会を逃してしまう。
ちなみに、判決は自己中心的な行いにより、兄夫妻を毒殺し、
娘であるユヅキを殺害しようとした事により、死ぬまで強制労働の罪になった。