5月5日(月曜日)
「さて。第3形態の対策でもするか。」
「その前に話を聞かせてちょうだい。」
「そうだな。掲示板ですごい騒ぎになっているぞ。」
「アキホお姉ちゃんに、カイト。いらっしゃい。騒ぎ?なにが?」
レイドイベントの事を考えようと思っていたら、
カイトとアキホお姉ちゃんがやって来た。
「はぁ(ため息)お前らしいな。
最初は、第二形態のタイムトライアルで、
お前が10分と言う驚異の数字を出した所からだ。」
「それまでは、知らないチームが30分切った数字で、
なかなかそのタイムを抜けそうで抜けなかったのよ。」
「そう。
そんな中、一般の見物客がいなかった事もあり、今度はチート祭りになったんだ。」
2人で現況を話してくれた。
「なるほど。一撃で倒したなら、そう思っても良いかも知れないけど、
あれと同じ戦いをしたからと言って、第三形態を倒せるわけじゃないのに。」
「コウちゃん。
そこは、強い人を脱落させて、自分が美味しい思いをしたい人や、
妬みやただ単に煽っている人とか、色々いるのよ。」
「ふぅ〜ん。それで、その後は?」
「ああ。その後は、運営に、話が行ったみたいで、映像が公開された。
そしたら、チートだとか言っていた奴らは、掲示板から姿を消したようだな。」
「見ていた私も、動きながら、攻撃のチャンスに攻撃していただけと見えたからね。
あと、土壁は、みんな、盾で防御したり、直撃しないようにしていたんだけど、
壁を作ると言う発想が無かったのよ。」
逆にその発想が無い事にびっくりした。
「え!?普通、物影つまり障害物を盾にして戦うでしょ?
あの時は、土が目に入ったから、作っだけなんだよね。
後で考えたら、瞬動でレイドボスの裏に回ったほうが、安全だと思ったから、
強力な攻撃が来たら、そうしていたけど。」
「そこは、考え方の違いだな。コーヤの様な対応出来ているのは、他にもいる。
現在、最深部攻略している奴らは特に、
色々と試行錯誤して、効率の良い、戦い方を模索している。
しかし、大多数は、ファンタジーゲームと言う思い込みがあるから、
魔法でどうやって、敵の攻撃を防御するかとかが最初に来る。
だから、現実とファンタジーを融合した考え方が出来ない人が多い。」
「でもさ。その、最前線組?も、
僕の攻撃力がチートなら、その人達もそうなるんじゃ?」
「(苦笑)コウちゃん。それは、違うわ。その人達は、課金アイテムを使っているから。
でも、コウちゃんの装備は、課金で得たのじゃ無いでしょ?
だから、不正をしているんじゃないかって話になるのよ。」
「はぁ(ため息)面倒臭い人達だ。
そもそも、不正して、強い敵倒しても意味無いだろうに。」
「まぁ。そこは妬みの部分が大きいと思うわ。
自分がこんなに苦労しているのに、あの人はあんなに楽してるってね。
そうそう、さっき、カイトくんに聞いたけど、みんなに装備をプレゼントしたそうじゃない?
私達にはないの?」
「ええ?アキホお姉ちゃん、必要ある?
だって、その装備だって、僕が作った装備と大差ないし。」
「確かに基本性能は、大差無いけど、コウちゃんの場合、隠し玉とかあるんでしょ?
その辺りが、私達には不足しているの。だから、私達にもコウちゃんの装備ちょうだい♪」
「ちょっと待って。(素材確認中)ギリギリの素材もあるから(素材が書かれた紙を渡す)
その素材を持って来てくれれば、作ってあげるよ。
それと、不用品やデザインの参考に、なりそうなのがあれば、欲しいかな。」
「素材の件は了解したわ。なんで不用品なんているの?お金ならあるわよ?」
「お金はあるから要らないんだ。
それよりも、創作のヒントになったり、隠された良品の方が、色々と後に役に立つから。」
アキホお姉ちゃんが、拠点の方を見て言う。
「でも、この拠点を維持するにもお金かかるでしょ?お金が要らないほどって、どれ位?」
「そうだなぁ。
前にフィンテルダンジョン産の不用品の装備品を売ったんだけど、それで、金貨1200枚。
拠点に埋もれていた石などから、宝石が出て来たから、
それを売ったら、貴族などの大金持ちが買った様で、黒金貨2920枚が戻って来たんだ。
それに、宝石の売却益を得てから、半年程経つけど、黒金貨10枚も使っていないし。」
この話に、カイトが食い付いて来た。
「コーヤ!その話、聞いた事ないぞ!」
「まぁ。必要無かったからね。」
「ちっ。そんな美味しい物件だったなんて。」
「そうだったんだぁ。でも、どうやって、きれいにしたの?」
事情説明する。
「え!?無限袋なんて存在したの?」
「掲示板の噂の正体はそれだったのか。」
2人は正反対の反応を見せた。
「これが無限袋だよ。」
アキホお姉ちゃんに無限袋を見せる。
「うん。確かに鑑定結果で〈魔法袋(無限)〉になっている。これって、簡単に作れるの?」
「基本は、空間をイメージして、魔法袋を合成して行くんだ。
練度によって、容量の部分が変わるよ。
前に、アカネさん達にも、お願いされて、作り方教えたんだけど、
シェーラさんが相性良かったみたいで、数回練習したら、無限袋作れていたね。」
「コウちゃん、素材があれば教えてくれる?」
「うん。別に構わないよ。」
「なぁ。コーヤ。俺達にも、教えてくれないか。
みんなで頑張っていたんだが、なかなか出来なくてな。」
「うん。構わないよ」
この日は、素材を伝えて解散となった。
5月6日(火曜日・振替休日)
拠点にログインすると、ミュウちゃんが怒っていた。
「お兄ちゃん!なんで、無限袋の事、教えてくれなかったの!」
ミュウちゃんの近くにいたアキホお姉ちゃんが、苦笑いしていた。
「あ〜。アキホお姉ちゃんに聞いたのか。
聞かれなかったし、何より、あの当時は国王様の依頼や、
装備の大量生産なんかで考える事が多かったからね。
その後も、相談されなかったし。」
「むぅぅぅぅ。」
ミュウちゃんは納得出来ないのか、頬を膨らませている。
そんな、ミュウちゃんにアキホお姉ちゃんが近付いて話をする。
「ほら。ミュウちゃん。コウちゃんにはお世話になっているんでしょう?
それに、そんなに良い装備も貰ったんだし、ね?(威圧)」
というより、威圧で黙らせているような・・・(苦笑)
「(威圧にたじろぐ)ま、まぁしょうがないかぁ(汗)。
お兄ちゃんには、世話になっているし。
ねぇ。カスミ、魔法袋小100枚✕人数分、手に入らないかな?」
「そうねぇ。今後の事を考えると欲しいわね。
わざわざ整理する必要も無いわけだし。
王都に行けば、大量に手に入れられると思うわ。」
「よし!早速、行ってこよう!」
どうやら、ミュウちゃん達は、これから、魔法袋を入手する為に奔走するようだ。
「コウちゃん。ごめんね。それと、みんなの装備の素材持って来たわ。」
アキホお姉ちゃんが、申し訳無いと言った顔で謝って来た。
「いや。別に構わないよ。あると便利なのは確かだし。
装備は直ぐには無理だけど、一緒に頼んだアンケートを考慮しながら作るよ。」
「私にも教えて貰っても良いかしら?」
アキホお姉ちゃん達の装備に付いて話をしていると、イオさんがやって来た。
「イオさん、いらっしゃい。誰に?」
「無限袋の事、アカネに聞いたわ。
たまたま、アイテムの保管に関して、話していたら、
この話になって、頼んだら、快く教えてくれたわ(にこ)」
イオさんには、逆らわないようにしよう(苦笑)
「素材があれば、教えますよ。」
「素材って、魔法袋小を100枚だつたわね。聞いて、集めて来たわ。」
そんな事をしている間に、参加者が集合して来たので、無限袋講座を開いた。
「まず、合成を取得していない人はしてちょうだい。」
カイトが手を挙げて質問して来た。
「コーヤ。作る人だけが覚えていれば良いか?
俺達の場合、集中力のある女性陣にお願いしていたんだが。」
「う〜ん。でも、合成は誰が覚えていても損はないよ?」
「そうか?特に俺の様な前衛職は関係ないと思うんだが。」
「カイトは、合成を戦闘では役に立たないと思っているようだけど、全然違うよ。
例えば、剣が折れて、撤退を余儀なくされた。でも、敵は、逃げる隙きを与えてくれない。
こんな時、カイトならどうする?」
「う〜ん。そうだなぁ。とりあえず、袋から使えそうなのを探すな。隠れながら。」
「ほとんどの人は、そう答えるだろうね。
それで、例えば、あったのが薬草しかない。どうする?」
「む。その場合は、諦めて、魔物に体当りして、逃げる隙きを作るだな。」
「あ〜。コーヤさん!わたし分かったかも!」
ユニさんが気が付いた様で、答えを言って貰った。
「じゃあ。ユニさんなら、どうする?」
「まず、薬草を合成出来ればして、体力を回復する。
そして、わたしの場合は弓だから、
森であれば落ちている枝で、矢を合成で作って脱出する!」
「うん。最悪の事態を逃れれば良いわけだから、ユニさんの回答で良いと思うよ。」
「なるほど。
仮に手元に鉄があれば、本来の力は出せずとも、緊急避難的に、合成で修復して、
難を逃れる事も可能なわけだ。」
「そ。もちろん、今のは例えだけど、遠征とかだとあり得る話だと思うし。
常に最善の状態を保てれば良いけど、現実だってそれは無理だしね。
なら、常日頃から、手元にある物で最善を尽くす事を考えるのは、
無駄な事では無いと思うんだ。」
その話をしてからは、参加者全員が合成を取得した。
「さて。次は、空間を拡張して行く訳だけど、
例えにすると、油揚げって、ゆっくり拡げないと、すぐに破けてしまう。
それと、同じで慣れるまで休憩はさみながら、ゆっくりと作業した方が良いよ。」
「う〜ん。
私は、一応料理出来るけど、
餃子とかいなり寿司の具を入れるのって苦手なんだよね。」
アキホお姉ちゃんが悪戦苦闘していた。
「あれ?アキホお姉ちゃん意外だね。出来るイメージなんだけど。」
「そう?昔はそうでもなかったんだけどね。」
「これは、慣れだから、みんなもリラックスしながらの方が成功すると思うよ。」
1時間近く経つと、出来る人と出来ない人の差が広がって来た。
「うきゃゃゃぁ!無理!」
「ふぅぅぅ。私はだいぶ慣れて来たわ。
ミュウには、みんな期待していないから大丈夫よ。」
「カスミ!ひどいよぉ!」
僕とアカネさん、リンネさんは、アキホお姉ちゃん達、6人の装備デザインを考えていた。
3時間くらい、試行錯誤して7割程、デザインは完成した。
それで、無限袋作業会場に行って見ると、死屍累々になっていた。
「これは、私達と同じね。」
アカネさんが、以前の自分を見るように言う。
そう。アカネさん達と同じ様に、相性が良くて出来る人は、黙々と作業をして、
相性が最悪な人は、庭に死んだ魚の様な目で、仰向けで寝ていた。
「え〜と。何人生き残った?」
僕が聞くと、やはり、各パーティー1人くらいしか残らなかった。
そんな感じで、解散した。