4月7日(月曜日)
今日は、入学式と始業式が行われる為、
母校橘学園高等部の門では、入学式の前の写真撮影会が行われていた。
「ふっふっふ。これで、わたしも高校生!」
母方の従姉妹美羽ちゃんは、知り合いと写真を撮り合いご満悦だ。
そんな様子を、2年の教室へ行く途中の窓から校門を見ている。
「まだ、俺達が入学してから、1年しか経っていないんだな。
俺達も周りから浮かれて見えたのかな?」
なんとはなしにつぶやいた海人の言葉に、道下さんが答えた。
「そうじゃないかな?
私は、服選びで迷って、校門に来た時には、みんな写真撮り終わっていたから。
でも、時間は余裕だったから、焦らなくて良かったって反省したけど。」
海人が、新入学生の服装を見て、疑問を投げかける。
「あれ?うちって私服OKだったか?」
海人の質問に、牧ノ原さんが答えた。
「そうだよ。
去年の入学式には、結構な私服率だったんだけど、
私服だけで登校するのは厳しい!ってなって、ほとんどが制服になったと聞いたわ。」
入学式30分前になり、新入生は教室へ入るよう促される。
「僕達のクラスはどこだっけ?」
「確か、5組は角部屋だった筈。お!あったあった。」
僕達4人は無事に、2年も同じクラスに入る事が出来た。
これからの2年間は一緒のクラスだ。
ただ、2年5組の名の中に、見覚えのある名があったのだが、
誰も気が付いていないようだ。
ちなみに、美羽ちゃん、羽衣ちゃん、美鈴さんの3人は、
皆、違うクラスになっていた。
「進級して初日にテストっておかしくない?
光矢君に言われて、復習していなかったら、1問もダメだったかも。」
道下さんが、不満を言う。
「(苦笑)でもさぁ。初日にテストって、普通に考えられるよね?」
「それは、光矢だからだ。
普通は、進級して初日は、復習で終わると考えるだろ。」
「テストは復習の為でしょ?ならば、予想内だと思うんだけど。」
テストの事を吹き飛ばそうと、道下さんがゲームの話を始める。
「そう言えば、大型アップデート昨日あったんだよね。
それに、予告では、今後、小粒のイベントを常設イベントとするみたいだけど。」
僕は、内心苦笑しつつも、会話に加わる。
「うん。誰もが1番になれるチャンスを与えたんじゃない?
今まで、生産系のイベント少なかったみたいだし。」
「光矢は、これから、どうするんだ?
第五エリアボスも、初撃破されたし、目標が無いんじゃないか?」
「あれ?海人は、再挑戦しないの?」
「動画を見て、道下に話も聞いたんだが、バフのランダムがなぁ。」
海人は腕を組みながら、唸っている。
「あら、それなら、長期戦になっても良い様に、
ポーションを多く用意するとか、朱音みたいにアイテム作るとかあるでしょ?」
海人の後ろから声があり、海人がびくっとなった。
「なっ!」
「ちょっ!伊織!なんであなたがここにいるのよ。学校違うでしょ!?」
「簡単よ。あなた達が面白いから、編入試験を受けて合格したの。
さすがに、同じクラスになるとは思わなかったけどね。」
伊織さんが近くの席を寄せて座る。
「そりゃそうでしょう。でも、友達いたんじゃないの?」
「そうね。話をしたら、止める人もいたし、物好きだと言う人もいたわ。
でも、学力も同じくらいだし、家からなら、こちらの方が数分近いし、
あとは、前の高校は、付属じゃないから、大学で迷っていたんだけど、
こちらなら、学力があれば、上に行けると言うのもあって決めたの。」
「わたしは、まだ、大学の事なんて考えてもいなかったわ。」
「それで、陸原は再挑戦するの?
いつまでも、ランダムが怖いと言っていたら、双子に追い越されるわよ。」
「うっ!確かに。近い内に再挑戦する。
最初は、イメージ出来なかったが、今度は、動画があるから、
アイテムを多く持って行けば、撃破出来るだろう。
裏ステータスも、少しずつだが、上がっている感じがあるからな。」
海人は、以前よりも戦闘力に自信が付いたようだ。
「光矢さんは、あの装備、まだ使えると思う?」
伊織さんも、同じ疑問がでたようだ。
「どうだろう?
昨日の大型アップデートで、2つの隣国が実装されたけど、
機械帝国と精霊王国となっていたから、どこまで使えるかは微妙かな。
第五エリアボス限定になるかもね。
ただ、今後のイベントの交換品に、装備素材があるかどうかで、
隣国の戦闘力を知る試金石になりそうかな。」
「やはりそうよね。
朱音から、イベント素材の話を聞いて、今から集めるなら、
ドロップしか無いと思うの。
でも、情報サイトを見ても、どこにも書いていないから、
どうしようかと考えていたのよ。」
僕も情報収集しているけど、伊織さんも色々としているようだ。
「これは、勝手な予想だけど、今まで、古龍・龍王の2種しか無かったのに、
前回のクラン対抗戦の交換品には、古龍王が出て来た。
これは、今後はドロップなどで入手出来るようになる事を、
前提としているんじゃないかと思っているんだ。」
「なるほどな。光矢の考えが正しければ、5月から常設される天空の島、
後は、今までのダンジョンの報酬に加わったりするのかもな。」
海人がこの様に話すと、伊織さんが考察を話す。
「光矢さんの考えの可能性は否定出来ないわね。
4月から、小粒ではあるけど、色々と実装されたし。
今後も、装備素材が出て来るなら、私の店で買い取ろうかしら。」
ここで、伊織さんに提案しておく。
「伊織さんの鑑定レベルは?」
「確か、25まで行っていないと思うわ。」
伊織さんは、思い出しながら答える。
「じゃぁ、30まで頑張って貰って、不要品の回収をすると良いよ。」
「不要品の回収?」
伊織さんは、怪訝な顔をする。
「そう。多くの人は、鑑定を重要視していないから、
色々な場所で貰った物を、溜め込んでいたりすると思うんだ。
でも、その中には、有用な品もあって、以前話したかどうか忘れたけど、
”天使の羽”について話したっけ?」
”天使の羽”で思い出したのか、道下さんと牧之原さんが声を上げる。
「ああ。あれね。あれは不思議だよね。」
「本当。普通なら、捨てていてもおかしくないだろうし。」
「私は知らないわ。それに、2人の話では見当が付かないわね。」
伊織さんは、考え込んでしまった。
「俺も初めて聞いた。その”天使の羽”って何なんだ?」
「これは、僕が、ダンジョン産の装備が余ってしまって、
ヴィオさんの騎士団でも多く持って行って貰えなくて、
フィンテルの噴水広場で露天販売したんだ。」
「ああ、あの時か。
俺も、掲示板でしか知らないが、おかげで全部位揃ったとか書いていたな。
あれは、光矢だったのか。」
海人は当時を思い出しているようだ。
「で、午後2時半くらいから、人がいなくなって来たから、
他の用事があったから店じまいしたんだ。
そうして、用事を終えて、噴水広場の近くを通ると、
6人パーティーの1人の冒険者が、地面に崩れ落ちていて落胆していた。
色々な事情で、ダンジョン産の装備が手に入らなかったから、
噂で聞いた露天販売に来たけど、既に無くなっていた。
ただ、まだ、在庫もあったから、その人達に売る事にしたんだけど、
お金を持っていないと言っていたから、
所持品で僕が興味ある品があれば、それで良いとしたんだ。
そうしたら、ただの羽を鑑定すると、”天使の羽”が偽装されていると出た。
詳しく、内容を見ると”神族のいる神界に入る為の鍵”とあった。」
ここまで話すと、静かに聞いていた伊織さんが話し出した。
「まさか、あの話が本当だったなんてね。」
「あの話?」
今度は、僕が知らない話だった。
「ええ。本店にいる時に、お客から聞かれたの。
神族にも勝てる武器は無いかとね。
詳しく聞くと、第五エリア付近の村に、記憶喪失の神族がいるようなの。
時期は、去年9月の防衛戦の頃よ。
そのお客は、鑑定で知ったらしいんだけど、
もしかしたら、同じ神族が探しに来ると思っている様で、武器を探しているって。」
「もしかして、繋がった話なのかな?」
どうも、話が繋がっている様に思えた。
「時期的にも、その神族が落とした鍵の様にも見えるよね。」
「うん。でも、去年は魔族が二度襲来したけど、今年は、神族って事なのかな?」
「う〜ん、一度は関連のあるイベントが起こりそうだと思うけど・・・。」
道下さんと牧之原さんが、神族について会話している。
「話を戻すと、”天使の羽”の様に偽装された品もあるし、
レベル30になれば、大抵の品を問題なく鑑定できるよ。
第五エリアボスの時は、
海人が置いて行った、深層心理を知る事が出来る本が活躍したし。
不要品の回収は、お互いにとっても良いと思うんだ。」
海人が怒り出した。
「あれは!あの時、なんで教えてくれなかったんだ!?」
「だって、要検証とは思ったけど、まさか、ラスボスに効くと思わなかったからね。
あれを使いたいと言って来たのは、道下さんの方だよ。」
その時、別の話をしていた道下さんが話に加わった。
「わたしの名が聞こえたけど、何の話?」
「ああ、ほら、深層心理を知る本を貸してくれと言って来たでしょ?
あの時の話をしていたんだ。」
「なるほど。あの時は、陸原君達が10%でダメージが少なくなったと言っていたから、
光矢君に、袋の中の物で使えそうなのがあれば借りていい?って言ったの。
そうしたら、深層心理を知る本が入っていて、
光矢君はボスに通用するかは分からないと言っていたんだけど、
せっかくだから、貸して貰う事にしたの。」
「陸原に足りないのが分かったかも知れないわね。
朱音みたいに、予測して必要な品を揃えると言う思考が足りないように思うわ。」
「ぐっ!言い返せない。」
海人は悔しそうにしている。
「そうそう。光矢さん、朱音が2度使った銃を店に置かせて欲しいの。
威力があそこまで高くなくても、パーツによっては、
特化したり、多用途で使ったり出来ると思うの。」
「銃の作り方なら、拠点に置いてあるから、自由に見て。」
「ありがとう。」
この後も話に花が咲き、昼休みが終わる。
「受験組の人、受験お疲れ様!そして、合格おめでとう!乾杯!!!」
「(参加者一同)かんぱ〜〜〜い!!!!!」
いつものメンバーで、入学を祝う会をする事になった。
残念ながら、アキホお姉ちゃん達は、別の用事が重なり欠席となった。
「えー!受験組を代表して、わたし、ミュウがお礼を言います!
皆さん、わたし達の為に集まってくれてありがとうございます!
そして、料理を作ってくれた、お兄ちゃんやリンネさんも、ありがとう!
これからも、よろしくお願いします(深々とお辞儀)」
「(参加者一同)パチパチパチパチ!!!!!」
1時間程、話ししたり、一芸を披露したり、騒いで終わりの時間になった。
「さて。今日は、これでお開きにしたいと思います。」
「えーーー!お兄ちゃん、まだ、9時だよ?いつもなら、10時くらいまでするのに。」
ミュウちゃんが抗議する。
「そう。いつもならね。はい。高校入学のお祝いだよ。(机に置いて行く。)」
「まさか。お兄ちゃん。新装備?」
シエルちゃんは、目の前にある箱を早く開けたいと言った表情だ。
「ほら。開けて開けて。」
「うん!」
7人は箱を開けて、早速、装着する。
「すご〜〜〜い!かわいい!」
「本当。それに、武器によって少しデザインが違う。」
「デザインに関しては、僕じゃあ良く分からないから、
アカネさんとリンネさん共同制作だよ。」
「アカネさん!リンネさん!ありがとうございます!(深々とお辞儀)」
ミュウがお辞儀をすると、他の6人も倣って深々とお辞儀をする。
「気に入って貰えて良かったね。リンネ♪」
「そうだね。アカネ。(にこっ)」
「お姉ちゃん!ありがとう!大事にするね!」
あくあさんが、リンネさんにお礼を言っている。
「詳しい内容は、箱に入れてあるから各自読んでおいて。」
「ねぇみんな!早速、試しに行こうよ!」
早く戦闘に行きたいと言うミュウちゃんを、カスミさんがストップをかける。
「ミュウ少し待ちなさい。少し、手慣らしした方が良いわ。
このままじゃ。弱い敵にも死に戻りするわよ?」
「カスミの言う通り。手慣らしした方が、力を出しやすい。」
カスミさんの言葉に、シエルちゃんは同意する。
本来なら、それが正解なのだろうけど、前回の装備に細工をしてあったのだ。
「それは、必要ないよ。箱に入れた紙に重要事項として書いたんだ。
今まで使っていた胴鎧の中に、情報集積する魔石を組み込んであるから、
それを、新しい装備に付け替えるだけで、今までの動きが出来る筈だよ。」
7人は、付替え作業を行う。
「あれ?さっきまで、違和感あったけど、今は無い。」
「うん。すごく、しっくり来る。」
「カスミちゃん!」
「分かったわ。みんなも良い?あくあも私達と行きましょう?ミュウお願い。」
「了解!じゃあ!お兄ちゃん!行って来るね!」
ミュウ達、7人は走り出した。
「ふふふ。余程嬉しかったんでしょうね。」
「みんなのもあるので、持って行って下さい。」
各自、自分の名前の箱を持って行き、更新作業を行う。
「こりゃ。すごいな。今回はなぜか安心感もある。」
「本当ね。特に杖が自分の一部になった感じに思えるなんて。」
「わたしも、イベント素材で作られた弓より性能は落ちるけど、
すごく、手にしっくり来るし、なんだろう?長年使って来た武器見たいな。」
「カイトはもちろんだけど、オリエさんとユニさんに、満足して貰えて良かったです。
一応、アカネさんとリンネさんと、ネットで中世の西欧で使われていた、
デザインを参考にしているよ。
ただ、さすがに、エリアボスを倒す程では無いけどね。」
「それでも大丈夫だ。
みんな、どうだ?これから、軽く、第五エリアの探索しないか?」
メンバーからは異議が出なかった。
「じゃあ。コーヤ。俺達も行って来る。何かあったら、また連絡する。」
「コーヤ君。私達も軽く、今まで行けなかった場所に行って来るね。」
アカネさん達も探索に出かけるようだ。
「いってらっしゃい。」