8月31日(水曜日)
「う〜ん。コメント書けそうな議題は・・・。」
今日は、夏休み最終日。
2日前の29日に、鍛冶については一段落したので、
昨日と今日で、調薬など、今まで手を付けていない分野をしていた。
ところが熱中した事で、「直接民主制」の仕事の時間が取れたのは、午後5時だった。
この仕事は、今年の4月から高校生になって義務化され、
国政の議題に対するコメントや投票する為に、仮想世界の議論部屋に来ている。
天光暦2020年に選挙で大勝した《新しき風党》の選挙公約。
本格稼働したのは、今から20年前で天光暦2080年だけど、
その間に直接民主制の環境整備に尽力した。
その過程で、フルダイブ化したVR空間でのゲーム・医療・学校等の技術においても、
一般人の意見や感想を取り入れ、α版を全面開放した。
それによって、直接民主制に移行する天光暦2080年までの60年間、
《新しき風党》は政権与党であり続けた。
ちなみに、もちろん、技術面だけでなく、無駄な税制の改革、
官僚や国会議員の権力を分散するなどの政策が、
多くの有権者に受け入れられたのは大きい。
議論部屋
この部屋は、直接民主制に移行した時に、
国民が議論や討論、悩み相談等に使える用途で開設された。
書き込まれた内容は、議事録として保存される。
部屋が開設された20年前は、SNSと同じ感覚で反対意見への意味の無い書き込み等が、
多かったようだけど、5年前頃から、国会と同じ様な使われ方をしている。
ルール:
・月に1回以上、議論部屋にある案件にコメントする事、
・それと、投票待ち案件に、投票する事。
上記の二点しか無いが、ポイント制になっていて、
実行が確認されない場合、マイナスポイントになる。
コメント無しの場合:-2pt
投票一回欠席:-20pt
マイナスポイントも累計され、罰則が付与される。
軽いのは”社会奉仕”で
一番重いのは、”市民権剥奪”となり、”国民枠”から外される。
現在の主な政治システムは、下記の通り。
・議論部屋の内容は、精査委員会で検証。
・精査委員会と同軸に、各専門委員会があり、
各分野に携わる人達で構成し、国民に投票して貰う選択肢を提供。
・法律化の際は、法律の専門家による委員会で話し合いをし、
法律の原案を公表し、国民の意見で修正し、最終投票で可決すれば、施行される。
・諸外国からの窓口は1つで、そこから、専門委員会に割り振られる。
・憲法改正の場合、有権者100%の同意が必要。
・専門Webサイトにマイナンバーでログインすれば、全ての情報を閲覧出来る。
この様に、国会議員や官僚など、不正の温床になる部署を無くし、
国民の投票によって、国の運営をする形になっている。
ここまで来るのに、紆余曲折があり、苦労は計り知れない。
閑話休題
僕は、一つずつ議題を確認して行き、処理して行く。
最後に嫌な、議題を見つけてしまった。
「うわぁぁ。また、あるのか。先月もあったなぁ。」
議題は、「国軍を設立するべき」というもの。
過去の自衛隊は、《新しき風党》の技術と交渉により、国を守るという、
存在意義が無くなり解散している。
内容としては、簡単で《新しき風党》が領海や領空に、
レーザー技術の応用を使用した事により、戦闘機や核兵器などが侵入不可となったのだ。
これにより、他国が侵略する事は不可能となり、過去の同盟は破棄され、
過去の同盟国は撤退を余儀なくされた。
しかも、不服により、居座っていた場合、敵と判断される為、渋々ながら、撤退した。
これに、多くの国民が歓喜した。
ところが、その事を喜ばない人達もいた。
その人達は、軍は自分達国民を守るものだという迷信を信じている様だ。
この迷信は、過去の新聞等を見ると、天光暦2012年頃から大きくなった様に思える。
これがあったからこそ、《新しき風党》は政権党になって初めての仕事を、
「憲法改正は、有権者100%の同意が必要」という改革にした。
「しっかし、軍に類する組織が、”国民を守る”為ではなく、
”国を守る”為に敵を倒すのは、普通に分かりそうなのにな。(呆れ)」
そもそも、国民を守るのが最優先ならば、戦闘など出来ないだろうし。
時間を確認すると1時間後が経過していた。
「う〜〜〜〜〜ん!(背伸びをしてリラックスする)
はぁ。やっと終わった。思っていたよりも多かったなぁ。」
思いに耽っていると、声が掛かった。
「よう。光矢も来ていたのか。」
「ん?ああ。海人。終わった?」
「ああ。今回は、俺がコメント出来そうなのが、少なかったからな。
それより、光矢は夏休み前に俺が言っていたゲーム始めたのか?」
「ゲーム?あぁあれか。ちょっとした縁があってね。
今は、時間がないから、明日、学校で話すよ。」
「(時計を見る)おお。もうこんな時間か。
お前は、夕食作る時間か。そう言う事なら、明日聞かせてくれ。」
そうして、僕はログアウトして、夕食を作り始め、夏休みのイベントは終了した。