10月14日(金曜日)
「おはよう。」
「お〜。おはよう」
「光矢君おはよう♪」
「水晶君おはよう。」
席に座り、海人に近況を聞いてみる。
「そう言えば、海人達は第四エリアを越えたんだっけ?」
「まだだよ。エリアボスが強すぎて、みんな足止めされちまってる。」
「私のところは、ダンジョンでレベル上げして、
なんとか、第三エリアのボスは倒して、第四エリアに入ったばかりって感じ。」
道下さんは、第四エリアに入った様だ。
「私は、妹と一緒に拠点探しをしているよ。なかなか、無いけどね。」
「光矢は何をしていたんだ?」
「僕?僕は、作りたい装備を作り続けているよ。
とりあえず、満足した結果を出せたから、今は、畑作業を主にしているよ。」
「そう言えば、光矢の拠点ってどこだよ?教えてくれよ。」
ここで、僕達だけでなく、なぜか、クラス中が固まった。
「え〜!陸原君まだ、知らなかったんだぁ。」
「うん。妹も掲示板で、盛り上がっていたって言っていたんだけど。」
道下さんと牧ノ原さんはびっくりしている。
「え?有名なところか?う〜ん。」
海人が考えている間に、話が変わってしまう。
「そう言えば、光矢君は闘技大会に出るの?
今、参加者募集していて、予選をしているらしいけど。」
「俺は出るぞ。3月にも闘技大会あったけど、消化不良だったからな。」
「妹も出るって言っていたよ。3月の時も出ようと思っていたけど、
空気がギスギスしていて、イベント楽しめそうも無いと思って諦めたみたい。」
どうやら、前回の大会で問題があったみたいだ。
「なに?何かあったの?」
海人は、当時を懐かしむ感じで話し出す。
「ああ。あの頃、装備をやり繰りしながら強くなっていって、
知らない土地に行くのが楽しみだった。
当然、裏では生産職の人達が支援してくれているからこそ、俺達は安心して戦える。
多くのプレイヤーは、実際にそう思っていたからこそ、順調に行っていた。」
海人の話で、なんとなく、理由が分かった。
「なるほど。何があったか分かったよ。
要は強くも偉くもないのに、そう思い込んだ、そう言うプレイヤーが湧いたという事か。」
道下さんが話を引き継ぐ。
「うん。私もあの頃、そう言う雰囲気が嫌で、実際に何日もログインしないとかしていたし。
そして、全面対決になったのが、闘技大会だったんだ。」
「生産職の人は、自分達のレベル上げにもなるからって、国の要請に快く応じたんだ。
多くの参加者は、装備を直してくれてありがとうって言っていたんだが、
生産職不足もあり、長蛇の列が出来ていた。」
なるほど。マウント気取りという人の様だ。
「その長蛇の列で怒りを爆発させたプレイヤーが、
お前達生産職は、俺達戦闘職の装備をさっさと直せばいいんだ!って言ってね。
私も近くにいて、ムカついたから、行動を起こそうかと考えていると、
生産職のひとりが、直してあげたんだ。その時は、それで収束したんだけど。」
「その生産職の人は、どうやら、ベータ版でも威張っていた先程の男に苛ついていたらしい。
そこで、反撃したいと考えていたようで、
俺達には分からんが、直したふりをして細工をしたようだ。
ようだと言うのは、大会に出場していた戦闘職の男の装備が、灰になったんだ。」
「なるほどね。灰にしたのか。相当、色々と調べたんだろうね。」
「だね。当然、その男は、直した生産職のプレイヤーに食ってかかった。
その人は、涼しい顔で、直せと言うから直しただけで文句を言われる筋合はないってね。
その後、殴りかかったんだけど、運営側が出て来る事案になっていた事で、
私達は事態が相当悪い方に行っているんだって知ったの。」
「後で知った事だが、その男は相当あくどい事をしていたようだ。
ただ、あくどい内容は書かれていなかったから分からん。
まぁ。その後だな。
生産職のプレイヤーの多くが、引退したり隠れたりするようになったのは。
俺達、戦闘職はお前も知っている通り、神殿にダンジョンが見つかるまでの間、
NPCに頼る以外に方法がなくなり、探索どころでは無くなったわけだ。」
これが、前回大会に起きた問題の顛末のようだ。
「意外と大変だったんだ。今回はスムーズに行くんじゃない?」
「まぁ。そうなれば良いよねぇ。
でも、本大会に出る為には、勝ち上がらないとダメだけど。」
「妹から聞いたら、当時は屋台とかも無く、寂しかったらしいよ。」
「今回は、フィンテルが発展して、他の街などに影響を与えているようだし、
屋台とかあると嬉しいよね。あと、フリマスペースが欲しいかな。」
ログインすると、ソアリスさんが外でお茶を飲みながら待っていた。
「あれ?どうしたんですか?」
「こんにちは。そろそろ、10月も半分なので、コーヤ様の賞品の状況を確認してくれと、
お父様から言われたので来ました。」
「なるほど。完成していますよ。今出しますね。」
変形武器の完成形と応用した一体型装備、数点のアクセサリーを出した。
「武器のみのは、以前に私が使ったのと、あまり変わりはないんですね。」
「ええ。耐久度を上げると共に、2つの隠し玉、その他にも細工しています。」
「なるほど。一体型は、なかなか、面白い形なんですね。サイズも小さめですし。」
「見た目を小さくしているだけです。形は、今後、研究するつもりです。」
「と言う事は、装備すると装着出来る大きさになるんですね。」
「はい。合言葉で脱着が可能になっています。
それと、こちらにも、色々な機能を盛り込んでいます。」
「でしょうね。アクセサリーはどうなんですか?」
「アクセサリーは、研究の結果、3つの効果を付与する事が可能になりました。
今回、机に置いたのは、攻撃特化、防御特化、速さ特化、支援特化で作って見ました。」
「3つもですか。その技術を広めるのを許可貰えませんか?もちろん、対価は払います。」
ソアリスさんは真剣だ。
「少し条件がありますけど、僕にとっても楽が出来ますしね。」
「ありがとうございます。(お辞儀)」
ソアリスさんは、安心出来たのか、イスに戻って、お茶を飲み始めた。
「そうだ。闘技場の建設はどうなっているんですか?」
「闘技場の外側は最後の段階に入り、内装も少しずつ着手しています。」
「闘技場って、外壁で囲ったりするんですか?」
「今の所、予定は無いんですが、囲った方が良いのでしょうか?」
僕はフィンテルなど、塀で囲んでいるので、びっくりしてしまった。
「あれ?てっきり、そのつもりかと思っていたんですけど。
だって、魔物や賊も周りにいますから当然なのかと。」
「私達は、闘技場を要塞としても活用出来る様に作ったので、不要だと思ったんです。」
「う〜ん。要塞ですか。でも、外壁があった方が、手の内を隠す事も出来ますし、
後に、街とする事も可能ではないかと考えていたんです。」
「具体的には?」
「建築場所が王都への侵入を妨げると言う観点では要塞でしょう。
しかし、交通の要所でもあるので、商人や品物が集まりますし、
常設から、鍛冶や調薬などの生産系職人は、腕を上げたりする絶好の場所になるでしょう。
そうすれば、発展する可能性が十分にあります。」
「確かに。でも、王都ではダメなんでしょうか?」
ソアリスさんは考え込み、1つの疑問を口にした。
「王都でダメではないでしょうが、
多くの人が出入りする事を考えると、適していないと思います。
王都は王族を守る為にありますが、中心という事で、物価が高い。
それでは、冒険者や職人が根付くのは厳しいでしょう。
闘技場を中心に街が出来れば、物価や税金が安くなり、商人は利益が出るし、
職人は素材を手に入れ易くなると思います。」
「なるほど。分かりました。お父様には私から伝えておきます。」
ここで僕から、提案を話しておく。
「せっかくなので、商人ではない一般人が、好きに商売出来るスペースと、
飲食店が出店出来るスペースがあると、良いんですがどうでしょうか?」
「飲食店は分かりますが、一般人の為のスペースとは?」
「人材発掘の為でもあります。
物を作ったけど、売る場所がない、貰い物や買った物で不用品を捨てるのは勿体ないとか、
そう言う物で、掘り出し物ってたまにあったりしますから。
それと、物を作る楽しみに目覚めれば、後々、国の発展に影響するかも知れません。」
「ふむ。有意義な意見ありがとうございます。早速、話し合ってみたいと思います。」
そして、日付は過ぎて、大会当日になった。