5月18日(日曜日)
アキホお姉ちゃん達に、装備を渡して一週間が経過した。
今回のダンジョン攻略は、フィンテルの時と違って、攻略組だけでなく、
あまり戦闘を得意としていない人でも、報酬を多く貰えるようになっていて好評だ。
攻略の進行としては、第三形態突破が全体の半分、第四形態突破は4分の1程度、
最終形態突破はゴリ押しした集団が1組したようだ。
知り合い勢は、全員第三形態を突破したが、第四形態で足止めされていて、
カイトが相談にやって来た。
「それで、突破口を開けるアイテムが欲しいと。」
「ああ。そうだ。最悪の事態である、水中での戦いは、回避された。
だが、第四形態の素早さ特化だからか、タイミングが合わないと、魔法での拘束も難しい。
この形態は、完全体一歩手前だからか、魔法も通常攻撃も強くなっている。」
「う〜ん。
一人〈気配ゼロ〉を習得して、みんなが引きつけている間に、高出力攻撃するとか?」
「最終形態つまり、完全体を倒せた要因はそれもあるらしい。
しかし、この短期でそれは無理だ。
それに、当たりなら良いが、ハズレなら再戦があるからな。習得する余裕は無い。」
「となると、レイドボスを拘束して、攻撃を当てるか、溜め込んだ高出力攻撃で体力を削るか。
拘束の場合は、間接的だとダメだろうから、直接札を貼り付ける必要があるかな。
高出力攻撃は、周りの魔力を時間をかけて吸収し、至近距離からなら、相当削れるだろうね。」
「確かにな。しかし、思った以上に速いんだ。だから、みんな苦戦している。
一歩先を予想しても当たらないからな。高出力攻撃も当たらなければ意味が無い。」
「カイトさん。なにも、高出力攻撃は当てるだけでは無いですよ。」
ミュウちゃんとシエラちゃんがやって来た。
「2人ともいらっしゃい。そう言えば、四天王戦で面白い事してたよね。」
「そう。あれを使えば、相手の裏をかける可能性が高いと思う。」
シエラちゃんは、当時を思い出している様だ。
「なんだ?思い出せないんだが。」
カイトは、公式で使われていた場面を見ていないのか、懸命に思い出そうとしている。
「面倒だから話すけど、2人は四天王に気付かれない様に、
わざと外して五芒星を作ったんだ。
その真ん中に誘導されて、勝利を手にしたんだよ。」
「なるほど。使いようと言うわけか。」
「それでね。お兄ちゃんに、レイドボスを足止めする為の防壁を、
アイテムで作れないか相談に来たの。」
「フィンテルの封印状態を再現して、倒してしまおうと?」
「そう。でも、試行錯誤したけど。全然ダメだった。」
シエルちゃんが、今まで試した方法を教えてくれた。
「分かった。良いアイデアが閃いたから、それで試作品を作って見るから。」
「ありがとう!!検証はわたし達に任せて!明日のいつもの時間に来るね。」
「お兄ちゃん、ありがとう。私達は、みんな待っているから。」
2人は要件を伝えて、メンバーの所に戻って行った。
「コーヤ。何を思い付いたんだ?」
「まだ、完全な形になっていないから、話せないよ。
明日、カイトの問題も解決出来る試作品を考えておくから、検証は任せる。」
「おう!検証は任せておけ!」
5月19日(月曜日)
時間がある知り合いが、集まって来た。
「お兄ちゃん!来たよぅ!」
「俺達も揃っているぞ。」
「じゃあ。始めようか。まず、フィンテルの封印状態の再現ては、これを作って見た。」
取り出したのは、魔法札だ。
「あれ?お兄ちゃん、いつもの札と違う。」
「そう。今まで札として使っていたのは、道具屋や本屋で買える、普通の紙を使っていたんだ。
しかし、みんなの不用品には、ちょこちょこと魔法紙と言うのが、混じっていたから、
鑑定すると、この紙は、魔力を蓄える木のテアミンの樹皮から作られていた。
面白い性質を持っていて、勝手に周りの魔力を吸収するんだ。
そこで、アカネさんに実演して貰うから、見ていて。アカネさん。お願い。」
アカネさんは、手に持っている魔法紙で作られた札を、適当な空間に貼り付ける。
すると、札の外側から透明な板のような物が形成されて、
1メートル四方の透明な板の様な壁が完成した。
「なにこれ!?空間に貼れるの!?」
みんなも驚いているが、ミュウちゃんが一番驚いている。
「最初は、床に置くなり、レイドボス本体に貼るなりする方が、
使いやすいかと思っていたんだ。
その後、アカネさんとリンネさんとで、構想を話し合っていた時、
空間を小さく出来ればって話が出た。
家にいる時に、テレビのチャンネルを動かしていたら、空間収納の番組があって、
そう言えば、魔法袋は空間を拡げているなと思って、基本パーツを確認したら、
あったから作ってみたんだ。」
「リンネ。私達もその発想は無かったよね。
魔法とかバンバン使っていたけど、魔物に当てる事しか考えていなかったし。」
「うん。現実でも繋がっていないと空間は使えないしね。
パントマイム見たいに、繋がっていない空間を見せる方法があるのは、
ゲームだからこそだね。」
「まぁ。とは言っても、朝、早めに学校の準備して、急いで試作品作ったから、
さっきの実演程度しか出来ないんだ。」
「コーヤ。長さとか変更出来ないのか?」
カイトが質問して来た
「ちょっと待って。え〜と、高さ2メートル、横の長さは4メートル、厚さは50センチに設定と。」
良さそうな場所に貼って見ると、やはり、面積が多くなればなるほど、時間はかかり、
指定の状態になるまでに、30分を要すると鑑定で出た。
「う〜ん。時間がかかり過ぎるね。戦闘で30分は痛いなぁ。
強度測りたいから、誰か、魔法や武器で攻撃して見て。」
その後の検証で、厚さ50センチの場合、初級魔法までは耐える事が出来たが、
中級魔法ではすぐに破壊された。
武器の場合は、強化されていない武器なら、持ちこたえるが、強化武器だとダメ。
「強度を上げないと使い物にならないね。それと、壁完成までの時間か。」
「コーヤ。俺の方の解決策はどうなった?」
以前、カイトから依頼のあった話をする。
「1つは、過去に使われていた戦法で、1人が必ず死ぬ代わりに、敵の能力を削除する方法。
2つ目は、魔法カードを使って、魔法の威力を増幅させる方法。今の所、この2つかな。
「コーヤくん。1つ目は物騒なんだけど、それだけ強力なのよね?」
オリエさんが考えながら聞いて来た。
「ええ。なんでも、失敗した事が無いと書かれていました。
ただ、何回使ったとかは書かれていないので、信憑性はどうかなって感じです。」
「コーヤさん。2つ目の増幅なんだけど?どんな?」
ユニさんは、表情から増幅に興味があるようだ。
「考えているのは、魔法カードに〈増幅〉を付与して、
魔法カードの裏に加工したテアミンの木を合成。
予め、テアミンの木に魔力を溜め込んで、高出力攻撃する時に増幅させる感じですね。」
この話を聞いて、オリエさんとユニさんが、改良点について話しを始めた。
「分かった。コーヤは、壁と増幅の改良を頼めるか?1週間で出来る所までで構わん。
どのみち、この方法だけでは、完全体を倒せないだろうからな。」
みんな、頷いている。
「了解。出来る限り、実戦投入出来る様に頑張るよ。」