目次
是を以って、高御產巢日神・天照大御神、亦、諸神等に問う
葦原中國之所に遣わした天菩比神が久しく、不復奏(ふくそうせず)
亦、何(いず)れ之神を使わすが吉
爾(なんじ)、思金神答えて白(もう)す
天津國玉神之子 天若日子遣わす可(べ)き
故爾(ゆえに) 、天之麻迦古弓【自麻下三字以音】・天之波波【此二字以音】矢賜るを以って、
天若日子、而(すなわち)遣わす
於是(これを)、天若日子、其國に到り降りる
卽(すなわ)ち、大國主神之女 下照比賣娶る
亦、其國を慮(おもんぱか)りて獲る
八年于(に)至り、不復奏(ふくそうせず)
故爾(ゆえに)、天照大御神・高御產巢日神、亦、問諸神等に問う
天若日子、久しく不復奏(ふくそうせず)
又、曷(いず)れの神を遣わすを以って、天若日子之淹留所の由を問う
於是(これを)、諸神及思金神、答えて白(もう)す
雉名鳴女を遣わす可(べ)き
之(これ)詔(みことのり)する時、汝、天若日子者(は:短語)行った狀(様子)を問う
汝、葦原中國に使わす所以者(は:短語)、
其の國之荒振神等之和(やわらぎ)者(は:短語)趣(すみや)かに言う也
何(いず)れ、八年于(に)至り不復奏(ふくそうせず)
大國主神之女 下照比賣
「其の國」が、「大國主神」の滞在地だと仮定すると、「天若日子」は、もしかしたら、
最初から「大國主神」の滞在地に行く事を、命令されていたのかも知れません。
今回の範囲にある「亦問諸神等 所遣葦原中國之天菩比神 久不復奏」では、
「所遣葦原中國」とあるのに、「天若日子」の同じ場面では、
「天若日子久不復奏」とあるだけです。
これは、「葦原中國」に派遣したのでは無い事を、指しているのだと思っています。
多分に、多くの人は、第三章に登場する「妹高比賣命 亦名 下光比賣命」と、
同一人物だと思っていると思います。
しかし、「光」と「照」で異なりますし、「下照比賣」には、「命」の地位にいません。
なにより、第三章と第四章の話が続いているという根拠はありません。
なので、当然、時代が異なるのはありえます。
問題は、「下光比賣命」と「下照比賣」の時代と、
「大國主神」の存在した時代が不明な点です。
比較検証するには、どうしても、必要な事です。
第三章で「 妹高比賣命」は、検証済みです。
「大倉比賣神社」の説明に、
「舊事紀、地神本紀、大己貴命、先娶坐宗像奥都島神田心姫命、生兒下照姫命」とありますが、
「下照姫命」と「姫」になっているので、「下光比賣命」、「下照比賣」とは、異なります。
「先代旧事本紀」に関しては、該当箇所で考察します。
この様に、「下光比賣命」、「下照比賣」ともに、情報量が乏しく、考察は厳しいです。
しかし、「下光比賣命」に関しては、「妹高比賣命 亦名下光比賣命」とあるものの、
「大國主神」の子孫を調べることで、時代を知る情報はあります。
それと、「下光比賣命」は、「亦の名」とはいえ、
「妹高比賣命」の継承者が「下光比賣命」を名乗ったのは確定なので、
感覚的に、「妹高比賣命」の先々代、次代、次次代の範囲かなと思っています。
ところが、「下照比賣」に関しては、「命」や「神」の「地位」が無いので、
時代を知る手がかりが、ほとんどありません。
普通の人は、「下光比賣命」を「下照比賣」同一視したり、
「下照姫命」も同じと考えていて、検索しても参考になりませんでした。
「神社覈録」の様に「神社」についてまとめられている書物に、
多く情報があれば、良いのですが、残念ながら「神社覈録」以外ありませんでした。
「降到其國」の後に「卽娶大國主神之女 下照比賣」の文がありますが、
「天若日子」が、「下照比賣」を娶るために、
「大國主神」の滞在地に行ったと解釈できそうですが、
この間に、文はなかったのでしょうか?
この並びでは、その解釈しかできそうも無いですが、
今までの古事記の編纂者達の事を考えると、
省略している可能性もあるのでは?と思っています。
次の「亦慮獲其國(亦、其國を慮(おもんぱか)りて獲る)」は、
必要な文なのか、疑問に思っています。
この文は、「計画建てて、狩猟をした」と解釈できます。
なので、「「下照比賣」を娶ったので、宴会を開くために、狩りをして大物を捕まえた」
であれば、全く問題ないと思います。
次の文が「至于八年 不復奏」なので、「娶って、戻らなかった」でも、
話としては、問題なく繋がるし、逆に「亦慮獲其國」を挿入したために、
疑問しか出てきません。
「天菩比神」には、武器も渡さないし、滞在地を聞くこともありませんでした。
しかし、「天若日子 久不復奏 又遣曷神以問天若日子之淹留所由」とあり、
文に変化が出てきます。
それと共に、今まで、「是使何神而」、「亦使何神之吉」と「何」を使っているのに、
この場面では、なぜか、「曷」で「いずれ」と読ませていますし、
「使」だったのが、「遣」に変化しています。
この様に変化したのは、状況に変化が出たからだと考えています。
しかし、残念なことに、「曷」についての情報が不足しています。
字形を見ても、「甲骨文字」や「金文」の字形はなく、
「説文解字」の字形が最初に来るので、考察が進みません。
イメージを知る手がかりを探します。
「曷」の上字形を、「日」の字形と思っていましたが、
「日」の字形と比較しても、異なりますので、「日」に似ている「曰(いわく)」で調べると、
参照153のサイトと比較すると、確かに「曰(いわく)」と考えて良いと思います。
参照151: 曷: zi.tools
参照152: 曷的解释|曷的意思|汉典 “曷”字的基本解释
参照153: 曰: zi.tools
参照154のサイトを見ると、「勹」には二種類あると書いています。
「勹」には二種類の字が存在する(別字衝突)。
・「フ」と読む字。象形。伏せた人を象る。
「ふせる」「うつむく」を意味する漢語{俯 /*p(r)oʔ/}を表す字。・「ホウ」と読む字。「包」の略体。
二種類だと、考察するのは厳しくなりそうです。
参照155のサイトに、「商甲骨文𠂤賓間」と「商甲骨文賓組」の字形がありますが、
この次の字形が「説文解字」になってしまい、何が正しいのかの検証はできそうも無いです。
参照154: 勹 - ウィクショナリー日本語版
参照155: 勹: zi.tools
参照156: 勹
「亾」を「亡」と解釈している人が多いようですが、
「説文解字」の「匃」と「亾」の字形を比較すると、異なる部分があります。
参照157のサイトにある「説文解字」の字形では、「亾」の通りになっていますが、
参照158のサイトにある「説文解字」の字形を見ると、止まらずに下へと続いています。
可能性としては、「勹」の様に、二種類あるのでは無いかと思っています。
「忘」や「望」の「亡」の字形を確認しましたが、「亾」の字形になっていました。
「亡」の字形について調べると、参照159のサイトにあるように、
「漢隸書」までの字形は、きちんと止まっているのに、
なぜか、「説文解字」の字形では、下まで続く字形を採用しています。
当然、「説文解字」に時代にも、情報が多くあって、止まっていたのは知っているはずです。
疑問にしかなりません。
参照157: 匃的解释|匃的意思|汉典 “匃”字的基本解释
参照158: 亡的解释|亡的意思|汉典 “亡”字的基本解释
参照159: 亡: zi.tools
もう少し、詳しく調べてみました。
○「荒」、「慌」:
「金文」の「亾」の字形が、「人に見えてしまう」字形と、
「短い横棒」を「囲んでいる」様に見えます。
○「芒」:
「説文解字」で、「亾」の字形が、「L字」で止めるべき所を、下へと繋がっています。
○「甿」、「㟐」、「硭」、「棢」、「罔」:
「説文解字」の字形は見えませんが、「宋」では「下」へと繋がっています。
この字形は、「説文解字」では、普通に「L字」なんですが、参照159のサイトにある
「戰國金文戰國晚期」と比較すると、「周りを囲む」字形はありません。
「慌」に関しては、「荒」に引っ張られている様に感じているので、
もしかしたら、違うのかも知れません。
この字形は、参照159のサイトの「亡」の「説文解字」と同じ形をしています。
「L字」が正しいのか、「下」に繋がるのが正しいのか、現代では判断できません。
ですが、「亡」の字形サイトを検索すると、「L字」を書いています。
参照158のサイトと参照159のサイトの字形サイトに、
「下」に繋がる字形とあることは、こちらが正しいのかも知れません。
そうなると、多くの人は間違っているとなりそうです。
「甿」、「㟐」、「硭」、「棢」、「罔」の字形は、
調べた限り、「説文解字」の字形を確認できませんでした。
なので、「芒」と同じ系統ではないかと思っています。
参照160: 荒的解释|荒的意思|汉典 “荒”字的基本解释
参照161: 匄的解释|匄的意思|汉典 “匄”字的基本解释
参照162: 芒: zi.tools
参照163: 罔: zi.tools
参照164: 罔的解释|罔的意思|汉典 “罔”字的基本解释
参照153のサイトにある、「曰(いわく)」の「説文解字」には、
「䛐也。从口𠃊。象口气出也」とあります。
「䛐」は、「説文解字」の字形以降しか無いので、比較できませんが、
「詞」で考察しようと思います。
参照153のサイトの「説文解字」には、「䛐也」と「象口气出也」があります。
「象口气出也」は、「气を出す口の象(かたち)也」と解読でき、
「䛐也」との繋がりが気になります。
「詞」で検索しても、有益な情報が出てこなかったので、
分解して「言」+「司」で考えます。
参照164のサイトにある「司」の字形を見ると、
「二本線」の意味が気になりますが、何を表しているか謎です。
この「二本線」を、「人」と考えている人も多いようですが、
参照164のサイトの字形と、参照165のサイトの字形を比較すると、
言葉にしづらいですが、「司」と「人」では異なります。
残念ながら、色々と探しましたが見つかりませんでした。
なので、参照164のサイトにある「字源諸説」から、ヒントが無いかを考えます。
《説文》:臣司事於外者。从反后。凡司之屬皆从司。
《字源》:构形不明
《漢多》(劉興隆):釋字象用手罩口上大聲說話,會為主管之事,本義為主管。
從甲骨字來看,「司」的上部是否從「手」存疑,「手」 (又)多為三指。
徐中舒釋「司」的上部象倒置之柶(古代舀取食物的禮器),柶所以取食。
以倒柶覆於口上會意為進食。氏族社會中食物為 共同分配,
負責食物分配的人亦稱為司。季旭昇則認為◎象權杖之形,故有職司、主宰之義。
《漢多》(唐蘭):此外,甲骨文「司」與「后」字形近相混,唐蘭認為司、后二字本同形,
待考,參見「后」。
《説文新證》:甲骨文从「*刁」从「口」,「*刁」疑象權杖之類
〈説文解字注〉
臣司事於外者。 [外對君而言。君在內也。臣宣力四方在外。
故从反后。《鄭風》。邦之司直。傳曰:司,主也。凡主其事必伺察恐後。故古別無伺字。
司卽伺字。《見部》曰:覹,司也。䙾,司人 也。《人部》曰:伏,司也。
(亻(にんべん)+矦),司望也。《頁部》曰:䫔,司人也。《㹜部》曰:䫔,司也。
豸下曰:欲有所司殺。 皆卽今之伺字。《周禮・師氏》、《媒氏》、
《禁殺戮》之注皆云:司猶察也。俗又作覗。凡司其事者皆得曰《有司》。
] 从反后。 [惟反后乃鄉后矣。息茲切。一部。]凡司之屬皆从司。
「説文解字」には、「臣司事於外者。从反后。凡司之屬皆从司。」とありますが、
「也」が無いので、この当時、字源の特定できるだけの情報がなかったと解釈しています。
次に「説文解字注」ですが、調べると「1807年完成」とありました。
ここには、上記の「説文解字注」の箇所を見て分かるように、情報量は多くあります。
見ると「伺」の漢字が散見しますが、「伺」の漢字は「説文解字」の字形以降なので、
比較する事は難しいです。
「覹(うかがう)」や「主」など、解釈異なっているようです。
つまりは、「司」の字源は、現代に至っても、「字源の意味は不明」の様に思います。
参照164: 司: zi.tools
参照165: 人: zi.tools
この様に、「司」の考察をしましたが、「説文解字」、「漢多」という字形の書物は、
色々と考察していますが、木が枝分かれする様に「司」の「二本線」も同じ様な字形です。
この「二本線」の解釈が出来ずに、「伺」と関連付けていますが、
一番大切なパーツの意味が不明なので、正しいのか不明です。
多くの人が悩むのは、「一本線」が「枝分かれ」し、「二本線」となって長くなっている、
この字形が「司」以外に見つからないからだと思われます。
もし、他にも例があれば、もう少し、有益な情報があると思います。
今、使われている意味も、想像から来ているのかも知れません。
「曰(いわく)」の「説文解字」には、「䛐」とあり、横に並べると「詞」になります。
「言」+「司」として、考察して来ましたが、「司」の本来の意味が不明だと分かりましたので、
現在に使われている意味で考えます。
普通に、「言」+「司」の意味を考えると、「言葉を司る」になると思います。
「詞」を改めて調べると、「説文解字」があり、
「意内而言外也。从司从言。似兹切文二」とあります。
「意内而言外也」を、解読すると、「内の意、外而(に)言う也」となります。
「司」がある意味があるだろうか?と思いました。
もし、この文が正しいとするのならば、もしかすると、「司」とは、
「心にある話したい事」を、整理して、「外に発信」させるための、
「中心的な役割」なのかも知れません。
其の様に考えると、確かに「司令官」は「中心的な役割」になります。
「勹」は、「
勹」の字形考察にもありましたが、
「伏せた人」と「包み込む?」の二種類の字形があるようです。
解釈は色々とあると思いますが、「勹」が「包」に関連があると考えた場合、
「言葉」をオブラートに包むという意味もあるのかも知れません。
だとした場合、「曰(いわく)」+「勹」で、
「外交官」などの「言葉」を使う職業とも解釈できます。
「亾」の字形の解釈が、一番むずかしいと思います。
「 亾」の考察で、ポイントなのが、「L字」かどうかです。
「曷」の「説文解字」の字形では、「L字」になっています。
多くのサイトで書かれている「亡」の字形ですが、先の考察で書いたように、
参照159のサイトにある字形が、「漢隸書」と「説文解字」では大きく異なっています。
「宋代」でも「下」に流れているので、
「曷」の「亾」は、「亡」の字形では無いと考えられます。
他に情報が無いかと調べると、参照166のサイトが見つかり、
そこには、「説文解字」の文のみですが、「逃也。从入𠃊。凡亡之屬皆从亡」とありました。
見逃しが無いか、改めて参照159のサイトを見たら、「亡」の漢字の下に、
「下」に流れるような字形があります。
「亡」=「逃」は、下の方に「逃げる」の意味があるように思いました。
ならば、「亾」は「止」になりそうです。
あと、問題として、「人」の様な字形がありますが、当然、「人」の字形では無いです。
それと、どうやら「人」ではなく「入」の字形も見つけました。
ここで、以前、「入」を考察した時に、「矢」に関連していたのを思い出し、
参照167のサイトを見ると、「入」の字形の変遷もあり、
参照168のサイトを見るとその通りでした。
残りは、まとめで考察します。
参照166: 亾: zi.tools
参照167: 漢 字「入」の成立ち
参照168: 入: zi.tools
「曰(いわく)」+「勹」で、「言葉」を使う職業と考察しました。
上記により、「亾」は、「L字」は不明ですが、「人」の様な字形が「入」と分かりました。
「入」を「入口」と考えると、話が繋がりそうもないので、多分、違います。
そこで、「入」が参照168のサイトにある「矢頭」だと考えると、
「L字」は、「防衛」や「防御」と解釈することは可能です。
「曰(いわく)」+「勹」+「亾」で考えると、「「防衛」など「切羽詰まった」状況、
その状況の情報を整理しつつ、交渉相手に話す」が、
「曷」の意味なのでは無いか?と考えてみました。