故爾(ゆえに)鳴女、天自(より)降りて到りて、天若日子之門湯津楓上而(に)居る
天神之詔(みことのり)の命の如く、委曲(くわしく?)言う
爾(なんじ)天佐具賣【此三字以音】此の鳥の言うを聞く而(に)、天若日子が語りて言う
此の鳥者(は:短語)、 其の甚だ鳴る音惡(にく)む
故に、射殺す可(べ)きと進んで云う
卽(すなわ)ち、天若日子、天神の所で賜った天之波士弓・天之加久矢を持ち、其の雉を射殺す
爾(なんじ)其の矢、雉の胸自(より)通り、而(すなわち)逆に上に射る
天安河之河原に坐す天照大御神・高木神之御所まで逮(およ)ぶ
是(これ)、高木神者(は:短語) 高御產巢日神之別名
故、高木神が其の矢を取りて見れ者(ば:短語)、其の矢羽に血著しく
於是(これを)、高木神之(これ)告げる
此の矢者(は:短語)、天若日子が賜った所之矢
卽(すなわ)ち、諸神等に示して詔(みことのり)す
天若日子、或い者(は:短語)命(めい?)に不誤(あやまらず)射ったと爲す
惡(にく)む神之矢之(これ)至れ者(ば:短語)、天若日子に不中(あたらず)、
或るい者(は:短語)邪心有り
天若日子、此の矢に於いて、麻賀禮【此三字以音】と云う
鳥と雉
原文:
爾天佐具賣【此三字以音】聞此鳥言而 語天若日子言
解読:
爾(なんじ)天佐具賣【此三字以音】此の鳥の言うを聞く
而(すなわち)、天若日子が語りて言う
上記にあるように「此鳥」とはどの「鳥」を指すのでしょうか?
「雉」は登場していますが、「鳥」となると「雉」を含めて全部の鳥類となります。
それに、当然ですが、「鳥」は話をしません。
「聞此鳥言(此の鳥の言うを聞く)」とあるのに、なぜか、天若日子が話し出します。
非常に不可解です。
それに、「天若日子が語る」でも、「天若日子が言う」でも、問題ないはずですが、
ここでは、「語天若日子言」と「天若日子が語りて言う」と解釈できます。
そもそも、「可遣雉名鳴女」で止まっていて、「天若日子」は完全に無関係です。
「天佐具賣」が一度しか登場しないことから、話が繋がっていないのでは無いか?
と疑っています。
もし、仮に「天佐具賣」に「天若日子」に事情聴取するまでが仕事ならば、
前文に、命令された事の記載があっても不思議ではありません。
しかし、無いと言うことは、「天佐具賣」と「天若日子」の文には、
繋がりがないと思われます。
原文:
此鳥者 其鳴音甚惡 故 可射殺 云進 卽天若日子 持天神所賜
天之波士弓・天之加久矢 射殺其雉 爾其矢 自雉胸通 而逆射上
解読:
此の鳥者(は:短語)、 其の甚だ鳴る音惡(にく)む
故に、射殺す可(べ)きと進んで云う
卽(すなわ)ち、天若日子、天神の所で賜った天之波士弓・天之加久矢を持ち、其の雉を射殺す
爾(なんじ)其の矢、雉の胸自(より)通り、而(すなわち)逆に上に射る
「天若日子」が上司?に話をしたのは「鳥」についてです。
なのに、なぜ、「其の雉を射殺す」になるのでしょう?
「其の」は何を指すのでしょうか?
仮に話が成立したとしても、「其の雉」が何か分からないので、判断できません。
それに、「故可射殺 云進(故に、射殺す可(べ)きと進んで云う)」に続く、
「誰か」が「射殺す」事を「許可」する文が存在していたと思われますが、
古事記には、その文が無いので、「卽(すなわ)ち」は成立しません。
これにより、「故」と「卽」の文には繋がりが無いことになり、
別々の記事である可能性が強いと考えています。
「天若日子」が賜ったのは、「天之麻迦古弓」と「天之波波矢」です。
しかし、「卽天若日子 持天神所賜 天之波士弓・天之加久矢 射殺其雉」において、
「天之波士弓」と「天之加久矢」なので異なります。
ここから、「天之麻迦古弓」と「天之波波矢」の「天若日子」と、
「天之波士弓」と「天之加久矢」の「天若日子」は「別人」と言えます。
そして、同じ世代で「弓矢」を授けるのはしないと思うので、前者の子かも知れません。
ただ、残念ながら、判断材料がありません。
「爾其矢 自雉胸通 而逆射上」を、
「爾(なんじ)其の矢、雉の胸自(より)通り、而(すなわち)逆に上に射る」と解読しました。
「自雉胸通(雉の胸自(より)通り)」ですが、「雉自(より)胸を通して」としても、
「雉」を「貫通」すると解釈すると、近距離から強い力で矢を射れば、
貫通しても不思議では無いですが、情報不足で判断できません。
ただ、ここまでは、ありえる事ですが、「而逆射上(而(すなわち)逆に上に射る)」は、
文の繋がりを考えると、説明が無いので、繋がるようには思えません。
「矢」を射って、「雉」を貫通した後に「上」に射るとは、情報不足ではありますが、
多分に、「雉(飛ばない鳥)」と「鳥」が、同じ場所にいて、
最初に「雉」を射って、次に「鳥」を射ったのでは無いかと考えています。
「自雉胸通」の後に説明があったのかも知れませんが、古事記では削除されています。
上記の様に考えれば、「爾其矢 自雉胸通 而逆射上」の文も納得できます。
しかし、「天之波士弓」と「天之加久矢」で射殺した「雉」と「自雉胸通」の「雉」が、
同一である可能性もありますが、その様に見えるだけかも知れません。
この場面からは判断できません。
「天若日子」が「此鳥者 其鳴音甚惡 故可射殺 云進」と言ったとされる文ですが、
「其鳴音甚惡(其の甚だ鳴る音惡(にく)む)」について考察します。
「鳥」が「鳴らす音」がイライラするから、「射殺す」と解釈できます。
検索すると、参照197のサイトにある「コゲラ」が候補になりそうです。
「スズメ大で、「ギィー」と戸がきしむような声。」とあり、
十分に条件を満たしていると思います。
あとは、「はやぶさ」、「トラツグミ」などが候補になりそうですが、
当時の状況が不明なので、特定まではできそうも無いです。
参照197: コゲラ – BIRD FAN (日本野鳥の会)