爾(なんじ)高御產巢日神と天照大御神之命を以って、天安河之河原に於いて神集めを、
八百萬神が集め、而(すなわち)思金神の思いを令(うながし)而(すなわち)詔(みことのり)す
此葦原中國者(は:短語)、我御子之知る所の國、言依る所で賜った之(この)國也
故、此の國に於いて道速振荒振國神等之多く在るを以って爲す
是(これ)、何(いず)れの神を使う
而(すなわち)將(まさ)に趣(すみや)かに言う
爾(なんじ)思金神及八百萬神、之(この)議白(もう)す
天菩比神、是遣わせる可(べ)き
故、天菩比神者(は:短語)遣わす
乃(すなわち)ち大國主神に媚びて附き、三年于(に)至り、不復奏(ふくそうせず)
是
原文:
是使何神 而將言趣 爾思金神及八百萬神 議白之 天菩比神 是可遣 故遣天菩比神者
乃媚附大國主神 至于三年 不復奏
解読:
是(これ)、何(いず)れの神を使う
而(すなわち)將(まさ)に趣(すみや)かに言う
爾(なんじ)思金神及八百萬神、之(この)議白(もう)す
天菩比神、是遣わせる可(べ)き、故、遣わす
天菩比神者(は:短語)、乃(すなわち)ち大國主神に媚びて附き、
三年于(に)至り、不復奏(ふくそうせず)
「是」とありますが、前文の「故以爲於此國道速振荒振國神等之多在」と繋がりません。
理由として、前文は「故」から始まっていて、
「道速振荒振國神等」が「多く在る」理由が必要ですが、
この前文が、「葦原中國」は「我が御子」の國とあるだけで、「理由」とするのは違います。
前回の「
関係性」でも書きましたが、
「我が御子」を「正勝吾勝勝速日天忍穗耳命」とした場合、
赴任先は「豐葦原之千秋長五百秋之水穗國」であり、「葦原中國」ではありません。
「天照大御神」の「御子」だった場合、必ず「葦原中國」は「誰の國だ」と書くと思いますが、
前前文には、それらが無く「我が御子」とあるだけです。
今回の「是」は、本来、「前文」から繋がるはずですが、
「道速振荒振國神等」は、「荒れ地整備班」の事であり、
誰かを派遣する場面と考えるような描写がありません。
なので、多分に「是」以降の文は、前文とは無関係だと考えています。
「是使何神 而將言趣」を、
「是(これ)、何(いず)れの神を使う。而(すなわち)將(まさ)に趣(すみや)かに言う」
と解読しましたが、前文が、「道速振荒振國神等之多く在る」とあるだけなので、
上記にも書きましたが、「派遣」するべき場面では無いと思っています。
「將(まさ)に趣(すみや)かに言う」の文で、急がなければならない場面と思いますが、
なぜ、その様な事になったのかの理由が書かれていません。
すごく不思議です。
「道速振荒振國神」の言葉ですが、第四章を調べると、今回の「一度」しか使われていません。
つまり、「道速振荒振國神」がいるから大変だという事ではなくて、
別に大きな問題があるからこそ、派遣したのだと思います。
「天菩比神」が派遣に選ばれるわけですが、
初代と思われる「天之菩卑能命」との関係は不明です。
「
天之菩卑能命を祀る神社と神名」で、神社について調べたのですが、
ここを見ると「天菩比神」は存在せず、「天菩比命」が1件あるだけです。
第二章には、「天菩比命之子、建比良鳥命」とありますが、「天菩比神」との関係は不明です。
「故遣天菩比神者 乃媚附大國主神 至于三年 不復奏」の解読が、
「故、天菩比神者(は:短語)遣わす。乃(すなわち)ち大國主神に媚びて附き、
三年于(に)至り、不復奏(ふくそうせず)」だとした場合、
「乃(すなわち)ち大國主神に媚びて附き」が引っかかります。
これだと、派遣すると「大國主神に媚びて附く」事が分かっていたようにも感じています。
ただ、ここでも、情報が少なく、場合によっては、「派遣」と「媚びて附き」では、
時間差が大きい可能性もあります。
あと、「大國主神に媚びて附いた」事を、「天(あま)なる國」は把握しているので、
連絡係が既に、状況を教えている可能性があります。
「復奏」とは、「天(あま)なる國」に戻ってきて、報告する意味だと思うので、
「大國主神」と一緒に、現場を回って、状況把握しているとも解釈しています。
次に「媚」と「附」について考察します。
媚
参照76のサイトを見ると、「甲骨文字」では、「眉」の下に「女」がある字形となっています。
参照77のサイトに、本来の意味らしき記事がありました。
眉は眉飾。眉飾を加えた巫女を媚という。
卜文・金文に眉下に女を加えてその眉飾を強調する字があり、
それが媚の初文である。
参照77のサイトの記事を補足する記事が、参照78のサイトの記事です。
眼の呪力を強めるために、
眼の周囲にくまどりなどの媚飾(びしょく)を施すことがあり、
そのような媚飾を加えた巫女(ふじょ)は「媚(び)」とよばれた。彼女らが行う呪的な行為は、媚道(びどう)としておそれられた。
他に、参照79のサイトにある「國語辭典」に、「奉承」という言葉がありました。
調べると「つつしんで承ること。」とあり、あながち間違っていない様に思います。
参照76: 媚: zi.tools
参照77: 媚 とは? 意味や使い方
参照78: 2011 年:漢字暦を学ぶ
参照79: 媚的解释|媚的意思|汉典 “媚”字的基本解释
附
「附」の漢字の「甲骨文字」や「金文」が見つからなかったので、
本来の意味を知る事は、難しそうです。
なので、現代の意味を代用します。
上記の考察により、改めて「乃媚附大國主神」を解読すると、
「乃(すなわち)ち大國主神に媚を附ける」とも解釈することが出来そうです。
「至于三年 不復奏」の意味を掘り下げて行きます。
至
参照80のサイトにある「説文解字」には、「鳥飛從高下至地也」とあります。
解読すると「高い場所にいる飛ぶ鳥に従い、下に至る地」となりそうです。
これは、「目的地」に到着することだと思っています。
似た漢字が「到」です。
参照81のサイトにある「説文解字」には、「到」も「至」も同じだとあります。
しかし、同じ時代の字形を比較しても、確かに似てはいますが、
同じ字形を考えるのには無理があります。
「至」と「到」の違いですが、
調べると「至」が「目的に到着」、「到」は「通過点に到着」と解釈できます。
「至」と「到」が「同字」であるならば、
なぜ、同じ意味で同じ字形の漢字を、1つにまとめないのか?と不思議になります。
その点からも、「至」=「到」ではなく、お互いに別の字形なのだと思います。
例として、色々なサイトを見ていて、「夏至」と「冬至」は良い例だと思いました。
「夏至」は、「夏に至った」からですが、「夏」という「目的地」に到着したからです。
もし、「到」を使うのならば、「夏到」だと考えています。
例えば、「春」に「夏到」と言えば、「春」が「夏」までの「通過点」なので、合っています。
参照80: 至: zi.tools
参照81: 到: zi.tools
この様に考えると、「至于三年」は「三年于(に)至る」なので、
「天(あま)なる國」に戻り、調査結果を話したのが、「三年後」だったという話だと思います。
つまり、「三年」は、連絡係が報告していたが、「三年過ぎた頃」に戻ってきたと解釈できます。
ここで、疑問が出ます。
「天菩比神」が、「三年後」でも戻ったのならば、新たに派遣しなくても、情報があるので、
必要ないはずですが、二人目を派遣しています。
この点は、該当箇所で考察します。
奏
参照82のサイトにある「奏」の「商甲骨文𠂤組」の字形ですが、
「両手」で「何か」を持っていると解釈できそうです。
何を持っているのか?については、「禾」に似ていそうですが、
字形を比較すると、異なる点も多いです。
参照82のサイトにある「説文解字」には、「漢説文小篆」から想像したと思われ、
「奏、進也。从夲。从収。从屮。屮、上進之義。」とあり、「夲」、「収」、「屮」に分解しています。
しかし、先程も書いたように、「商甲骨文𠂤組」の字形からは、その様には思えません。
そのため、「商甲骨文𠂤組」の字形が本来の意味であるなら、
「楽器」が適しているようにも思います。
参考になる情報が無いか探していたら、関係ありそうな情報を見つけました。
説文新證:
甲骨文奏字象雙手持繁飾之花草樹木類工具(即「𠦪」)演奏歌舞以祈禱。「𠦪」也可能有聲符的功能
こちらは、手に持っている物を、「繁飾之花草樹」、「木類工具」とはありますが、
「演奏歌舞以祈禱」とあります。
他には、参照83のサイトに、下記の様な書かれています。
甲骨文は、祭祀用具の植物(根のついた植物など)を両手でささげもつかたちで、
祭祀儀礼の様子を表しており、神に供物や犠牲などを 捧げる意味で用いられている。
ここでは、「植物」とありますが、説文新證の「繁飾之花草樹」、「木類工具」と、
関係してそうに思います。
参照82: 奏: zi.tools
参照83: 音 符「奏ソウ」「湊ソウ」「輳ソウ」と「奉ホウ」「捧ホウ」「俸ホウ」「棒ボウ」
復
「不復」とあるので、「否定形」と考えられます。
参照84のサイトに、「甲骨文字」と「金文」がありますが、
旁の「复」の字形が、何を指しているのか、情報がありません。
上半分が「亜(亚)」、「家」など、諸説ありますが、説得力が少ないと感じます。
その中で、参照85のサイトでは、面白い解釈をしていました。
「十字路の左半分」の象形(「道を行く」の意味)」と
OK辞典
「ふっくらした酒ツボの象形と下向きの足の象形」
(「ひっくり返った酒ツボをもとに戻す」の意味)から、
「もとの道をかえる」、「ふたたび」を意味する「復」という漢字が成り立ちました。
参照85のサイトでは、「ひっくり返った酒ツボをもとに戻す」としています。
参照84: 復: zi.tools
参照85: 漢字・漢和辞典-OK辞典⇒⇒⇒ 「復」という漢字
「不復奏」を考察するために「奏」と「復」を掘り下げてみました。
考察する中で、イメージが変わってきました。
「奏」が「祭祀儀礼」を表していると考えると、「復」は「往来」の解釈が良さそうです。
これにより、「「祭祀儀礼」に出席するために、戻ってこなければ行けないのに、
「三年」経つまで、一度も戻らずに、欠席していた」と解釈できます。
ここで、疑問があり、確かに「祭祀儀礼」に出るべき人間が、
連絡係に欠席を伝えるだけで、三年の間、戻りませんでしたと言うのは、
この場面で、挿入するべき話だったのか?と思います。
それと、多分に、現場の状況は、連絡係から伝えてもらっているので、問題がないし、
そもそも、なぜ、派遣したのか?
もし、緊急事態だった場合、なぜ、三年も待ったのか?
この問題は、なかなか解決しません。