字源辞典

最終更新日 2022/08/23

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字源辞典 へようこそ Welcome to Japanese History

読み

・音読み

呉音: ニ
漢音: ジ
宋音: ル
唐音: ル

・訓読み

なんじ、しかり、その、のみ、ちか、ちかし

・その他

名前:「しか」、「ちか」、「ちかし」、「みつる」

意味

漢字一字

①なんじ。おまえ。二人称の代名詞。「爾汝(ジジョ)」 類汝(ジョ)
②その。それ。この。これ。「爾後」「爾来」
③しかり。そのとおりである。そのように。修飾語に添える助字。
「確爾」「莞爾(カンジ)」
④のみ。だけ。限定・断定の助字。 類耳

Wiki

意義
1:近くに居る人を指すときに用いる二人称の「なんじ」。
2:「その」、「この」、「斯様な」のように
直近の事実や前述の主文を指す言葉。
3:然り、その通り。
4:「のみ」限定する言葉。

OK辞典

①「なんじ(相手を呼ぶ言葉。あなた。おまえ。)」(反意語:我)

②「指示代名詞(事物・場所・方角などを指し示すのに用いるもの)」

 ア:「あれ」

 イ:「これ」、「この」、「ここ」(同意語:此)

 ウ:「それ」、「その」、「そこ」(同意語:其)

③「しかり(そのようである。そのとおりである。)」(同意語:然)

④「しかく・しか(そのように)」(同意語:然)

⑤「しかする(そうする。そのようにする。)」

⑥「のみ(助字。~だけ。~にすぎない。)」

⑦「他の語の下について状態を表す語を作る」(例:卒爾)

⑧「ちかい(近)」

現在の字源説

・OK辞典:

「美しく輝く花」の象形から「美しく輝く花」の意味を表しましたが、
借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、
「二人称(話し手(書き手)に対して、聞き手(読み手)を指し示すもの。
あなた。おまえ。)」を意味する「爾」という漢字が成り立ちました。

OK辞典

・Wiki:

(例えば漢委奴国王印のような形の)柄に紐を通した大きな印を描いたもの
(あるいは花の咲く象形とも)。

音が仮借され代名詞・助辞などに用いられるようになったため、
印には「璽」が用いられる

Wiki

・漢字一字:

糸車の形にかたどる。借りて、助字に用いる。

漢字一字

今までに調べた所、上記の3パターンに絞られている様に思います。

その後の調べで、甲骨文字等を掲載しているサイトを見つけたので比較検証します。

参照1: 漢字一字

参照2: Wiki

参照3: OK辞典

比較検証


甲骨文字

上記の形が「甲骨文字」の基本形の様です。

「甲骨文字」で判明しているのは、参照4のサイトによると、
「9個」存在し、上記の形が最初の形となっています。

形の特徴として、上下の線が互い違いになっています。

9個の内、5個は特徴が継承されていますが、
他4個の形は、一部が足りなかったりと、基本形から離れています。

上記に基本形とは違う形を抽出しました。

一番目:方向違いにはなっているが、上下の距離が近すぎて矢印の様に見える。

二番目:上部の左向きの線が不足している。

三番目:一番上の傘のような形が無くなり、うろ覚えで書いた様になっている。

四番目:形が崩れて、基本形を知らなければ、何を指すのかは分かりません。

参照4のサイトに掲載されている順番は、順不同だと思いますが、
上記の形は、左から3番目、6番目、8番目、9番目となっています。

この他の5個の形は、少々歪んでいるのもありますが、
全体的に「基本形」に忠実に書かれています。

なので、5個の形が書かれた時代が古く、
上記4個の時代は、5個の形の時代より新しいと考えています。

5個の形の時代は基本形なのに対して、4個の形の時代は異なっているのは、
戦争や火災等により形は残ったが、形の意味を失い、
また、焦げたりしたために、判別できなくなり、形が変化したのかも知れません。

ただ、当時は現存する甲骨文字以外にも、
紙の様な媒体に書いていただろうと思いますし、形の意味を知らなくても、
見たまま書けば良いので、なぜ、変化していっていたのか不思議です。

※全体の比較は、 zi.toolsを参照して下さい。

参照4: zi.tools

時代

時代は、「商(殷)」時代で、中期〜後期に分類され、
貞人組という、「甲骨占卜担当者」グループがあり、
貞人組の中の「賓組」の人達が書いたと云われているようです。

派生組については、諸説あり、現在でも解明されていない様で、
検索すると、色々な人による見解をPDFで見ることが出来ます。

ただ、「商(殷)」代中期〜後期に、上記の形が存在していたとすると、
それよりも昔に形が作られたと考えられます。

そうであるなら、上記の形も、本来の形から変化したのも知れません。

ちなみに、Wikiによると、「洹北商城跡遺跡」は「商(殷)」中期と云われ、
「殷墟」は「後期」に分類されるようです。

現在、「殷墟」からは、「甲骨文字」が出土されていますが、
中期の遺跡と云われる「洹北商城跡遺跡」からは、
「文字」と言える品は出土されていないらしいです。

金文

金文は、参照5のサイトによれば、
「殷代から漢代にかけて作られた青銅器の上に鋳込まれた文字」を指すようです。

なので、「甲骨文字」の延長線上と考えていましたが、
「金文」の形を見ると、どうも違うようです。

  商   西周早期  西周中期  西周中期  西周中期 西周晚期   春秋   春秋
                           或春秋早期

参照4のサイトにある時代区分を、金文の形の下に載せましたが、
「甲骨文字」と比較すると、継承されているようには思えません。

特に、「商」の金文にある矢印の形の下にある、
「2つの横棒」は、「甲骨文字」には存在しないのに、どこから出てきたのでしょうか?

以降の時代は、商の金文にある「2つの横棒」を入れています。

そもそも、「甲骨文字」や、「日常的に使う文字」が存在し、利用しているのに、
本来の形には無い部分が、加えられた背景に何があったのか、気になります。

平穏な時代であれば、そのような事は起きないと思うので、
異変が起きていたことは確かでしょうが、
その箇所が何か?を知るのは、情報が少ない現時点では難しそうです。

※正しい形は、 zi.toolsを参照して下さい。

参照5: 金文 【青銅器に刻まれた中国の古代文字】

篆書(てんしょ)

金文の次の書体が「篆書体」となります。

Wikiによれば、下記のように定義されているようです。

広義には秦代より前に使用されていた書体全てを指すが、
一般的には周末の金文を起源として、戦国時代に発達して整理され、
公式書体とされた小篆とそれに関係する書体を指す。

Wiki

  曹魏  唐 李陽冰 宋 集篆古
            文韻海

Wikiの定義、上記の篆書の形、金文の形を総合して考えると、
「周末の金文を起源とする」と言うのは正しくないと思っています。

この問題を考える前に、確認が必要です。

・曹魏の時代に、甲骨文字と周末以前の金文が存在していなかったのか?

この疑問が一番重要となります。

「篆書(てんしょ)」へと繋がる形は、
金文では「西周晚期或春秋早期」の しかありません。

この過程において、勢力同士の戦いがあり、最終的に勝利した陣営が、
「篆書(てんしょ)」の形に継承させたのではないかと考えています。

なにより、「周末の金文を起源とする」とはありますが、

と「西周晚期或春秋早期」・「春秋」の金文の間に統一感がありません。

金文を継承したにしては不自然です。

この後の形は「篆書(てんしょ)」の継承で一致していますので、
最低でも、大きな変化があったのは間違いないでしょう。

ちなみに、「曹魏」の時代に「甲骨文字」や「金文」が残っていたのか、
調べましたが、「三国志」の記事が多く、判断できませんでした。

※正しい形は、 zi.toolsを参照して下さい。

本来の意味検証

今度は意味について考察します。

字源の考察の時にも上げましたが、現代では3パターンに分かれます。

・OK辞典:美しく輝く花

・Wiki  :柄に紐を通した大きな印を描いたもの

・漢字一字:糸車の形にかたどる

この3パターンの内、本来の意味があるのかを知るためには、
「爾」について調査したサイトなどの情報が必要です。

調べてみると、「爾」の意味についても書いてあるサイトを、
数個見つけることが出来ましたが、
直接関係がある2つのサイトの記事を参照しながら、考察して行きます。

zi.tools

原文:

Origin 字源諸說

《說文》:麗𤕨、猶靡麗也。从冂㸚。㸚、其孔㸚㸚。从尒聲。此與爽同意。

《字源》:象形 像三足的络丝架,上有锐头,中有器身,
        下有竖足,为“𪱾”(ni3,络丝𪱾)之初文

《漢多》:甲金文象三足的繞絲、紡線的架子(絡絲架),上有銳頭,中有器身,
       下有豎足,並有絲線圍繞。本義是繞絲、紡線的架子,
        是「檷」的初文(林義光),後借用為第二人稱代詞。

解読:

《說文》:

名称はWHP(㸚)に由来しています。 冂㸚から。 クラス名は「㸚㸚㸚」です。
尒の音から。 これは、爽と一致する。

《字源》:

ピクトグラム 鋭い頭、胴、垂直な足を持つ三本足の絹織物ホルダーのようなもので、「𪱾」(にさん、𪱾)の頭文字をとったもの。

《漢多》:

A金文には、上部に鋭い頭部、中間に胴部、下部に垂直な足部を持ち、
絹糸に囲まれた三本足の絹糸巻枠(羅石枠)が描かれている。

原義は絹を巻いたり糸を紡いだりするための棚で、
「文鳥」(林義光)の頭文字をとったもので、
後に二人称代名詞として借用されるようになった。

zi.tools

上記の記事は、「Origin 字源諸說」と書かれた箇所にあった文です。

「說文」に関しては、「甲骨文字」を見る限り、間違っていると言えそうです。

この「說文」が書かれた時代には、「西周中期」や「西周晚期或春秋早期」の形を見て、
その様に考えたのだろうと思います。

次に、「字源」では、「鋭い頭、胴、垂直な足を持つ三本足の絹織物ホルダーのような」
とあり、「甲骨文字」の形を思い浮かべる事が出来ます。

次の「漢多」でも、「A金文には、上部に鋭い頭部、中間に胴部、下部に垂直な足部を持ち、
絹糸に囲まれた三本足の絹糸巻枠(羅石枠)」とあり、
「原義は絹を巻いたり糸を紡いだりするための棚」と続いている。

これは、「字源」とも共通しているし、なにより、説得力があります。

他にも、色々と書かれているので、サイトを見てもらいたいですが、
翻訳して読んでいると、どうも、「爾」を基本として考えているようです。

しかし残念ながら、「爾」は変化した形であり、
「甲骨文字」とイコールではありません。

それに、「漢多」には「金文」とあり、内容が「甲骨文字」と一致するので、
「爾」以前の形が、当時残っていると思います。

であれば、そちらを優先するべきで、「㸚」と関連付けるのは違うと考えます。

音符 「爾ジ」 <色糸の結び飾り> と 「弥ビ」:

解字

金文から現代字まで、色糸を編んだ吊し飾りの象形と思われる。

しかし、本来の意で使われず仮借カシャ(当て字)されて、
相手をよぶことば、および指示代名詞、助字として用いられる。

新字体で用いられるとき、爾⇒尓に略される。

現代の色糸の結び飾りは中国で「結」または「絡子」と呼ばれている。

「解字」とあり、上記のように書いているのですが、
「色糸を編んだ吊し飾りの象形」とは、何を参照して得た答えなのだろうか?

サイトページを見る限り、その事を書いている箇所はありませんでした。

この解釈は、すごく興味があり、
「商の金文」が「色糸を編んだ吊し飾りの象形」だとするならば、
「甲骨文字」とは違う意味となり、「別字」の可能性が出てくるからです。

上記の様に、「甲骨文字」には存在しない「横棒2本」が、
「金文」になると出てきたのが、「別字」であるならば、不思議ではありません。

もし、そうだとするならば、「甲骨文字」・「金文」が作られた時代、
多くの似た形が存在したのかも知れません。

参照6: 音符 「爾ジ」 <色糸の結び飾り> と 「弥ビ」

まとめ

上記で考察したように、
「甲骨文字」が1期、「金文」が2期、「篆書(てんしょ)」が3期とすれば、
「字源」や「意味」が混同されていても不思議ではありません。

また、この考察により、
「OK辞典」、「Wiki」、「漢字一字」の各サイトに掲載される記事が、
どの時代から来ているのかも、判断できるようになります。

漢字一字:糸車の形にかたどる

「甲骨文字」の形から来ていると思われ、
個人的には、「爾」本来の正しい意味と考えています。

ただ、 zi.toolsでは、
「絹織物ホルダー」、「絹糸巻枠」、「絹を巻いたり糸を紡いだりするための棚」
とあり、「絹」を強調しています。

「糸車」の「糸」が「絹糸」なのかどうかは、情報も無く不明ですが、
可能性的には、あり得るとは思っています。

Wiki:柄に紐を通した大きな印を描いたもの

これは、「金文」から来ているように考えていて、
金文の「↑」の様な形が、「大きな印」かも知れません。

参照6のサイトにも、「色糸を編んだ吊し飾りの象形」とあり、
通じるものがあるように思えます。

問題は、なぜ、「甲骨文字」の形である、上下の「方向違い」ではなく、
「金文」になると、「↑」の形になり、「横棒が2本」追加される事になったのかでしょう。

例えば、「殷」→「周」に交代した時に、改めたのであれば、理解できますが、
「金文」は「商」の時代から存在しています。

「甲骨文字」をそのまま、「金文」でも使用すればいいのに、
そうしなかったという事は、「商」が他国に負け、
「戦勝国」が自国で使っていた「金文」の形に変更させたという考えも出来ます。

「商」について調べると、
「殷」は自国を「商」と称し、「西周」は倒した国を「殷」と記載したようです。

この情報を見て、
「夏」→「商」→「殷」→「西周」の可能性がありうそうだと思いました。

「西周」が自分達が倒した国の名を、間違えるはずが無いでしょう。

「商」=「殷」と考えたのが、決定的情報が無いのであれば、
まずは、別々に考えるべきと思います。

なにより、同じ「商」の時代であるにも関わらず、
「甲骨文字」と「金文」の形だけでなく、「意味」もまた異なっています。

このサイトでは、今回の様に、同じ時代なのに異なった場合、
別の国の可能性を疑いつつ考えて行きます。

OK辞典:美しく輝く花

最後の「美しく輝く花」ですが、参照4のサイトにある形と比較すると、
「西周中期」もしくは、「春秋1」に似ています。

しかし、どのサイトを調べても、「美しく輝く花」という意味は見つかりませんでした。

ところが、「爾」の省略形と云われる「尓」にありました。

原文:

“尔” 一说是花繁状,一说是络蚕丝的架子。笔者倾向后者,
盖因架上挂满丝茧状如繁花,从早期字形看象用下垂的树枝制成的蚕丝网架。

解読:

”尓”は「花のような」という意味で、
もう一つは「絹糸の網目模様の枠」という意味だという。

著者は後者を好む。棚には花のような絹の繭がたくさんあり、
初期のグリフからは垂れ下がった枝でできた絹の網のように見えるからである

「美しく輝く」とは書いていませんが、「尓」=「花のような」だとするならば、
「爾」の「甲骨文字」の意味である「糸車」とは違うので、
「爾」=「尓」ではなく、別字だと言えると考えています。

「尓」については、専門ページで改めて考察します。

ただ、探せば「甲骨文字」の形は見つかったと思いますが、
なぜ、「金文」でも後半のこの形を、「爾」の字源として選択したのか不思議です。

参照7: 字源查询-尓

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